1+1=∞




いつも、気づいたら考えてる。
例えばそう、授業中。わかりきったことをつらつらと並べ、自分勝手な話を続ける教師。
そんな退屈な時間、頬杖をついて青く晴れ渡った空をぼんやりと眺める。
ただ雲が流れているのを見ているだけのはずなのに、無意識に頭に浮かんでくる残像。


『ねえ越前君、キスさせてよ』
そう言ってきたのは部活前の部室の中だった。
たまたま早くHRが終わって委員会もなく、一番乗りとなったちょうどその時、不二先輩が現れた。
だけど今から考えるとそんなの決して偶然ではなかったような気がする。
何しろあの人の考える事はわからない。
『何言ってんすか。誰か来たらどうす…』
『誰も来ないから』
『ちょ、ちょ…と待っ!!』
ベンチに、もたれこみ視界が急に狭くなる。
目の前に見えるのはただ不二先輩だけでそのほかの物は全く見えない。
それはただ自分がそう思い込んでいただけかもしれないが吐息がかかりそうな程近づいた顔を前に平常心ではいられなくなっていた。
ガチャ……
一言言葉を紡ぐだけで触れてしまいそうな唇がぴた、っと止まる。
耳に入ったのはドアが開くような音。
それと同時に入り込んでくる風は生ぬるくて誰かが着たのだという確信へと変わった。
『お前ら、何をしてるんだ』
よく聞き慣れたその声はどこか震えている。
その人物の性格上、驚きの声というより怒りの声だ。
どちらにしろ助かった、という事実がつきつけられて未だにこの状態なのに安堵感が襲ってくる。
『部長!助けて下……』
『もー!!もう少しだったのに邪魔してくれちゃって…。ね、手塚。すぐに終わるからちょっと外で待っててよ』
そのキラキラオーラを放っている声とは逆に、ひんやりとした言葉が紡がれた。
『………2人とも、校庭50周』


いつでもあっちのペースになってる気がする。
俺が逆らおうが何しようが結局はあっちのペースにさせられて。
部長達に助けられる事は何度もあった。
だけどその数の多さだけ、むなしさが襲う。
何があっても俺の前には笑顔を浮かべた不二先輩がいる。
それがただ不満で、1人でムクれている時、やっぱりいいように遊ばれた。


『越前くーん。何怒ってるの?』
休日に不二先輩の家にいる時だった。
テレビゲームをしている所を無理やりデートに行こうとひっぱりだされる。
嫌だと言っているのにそんな言葉を聞き分けるわけもなく、強制連行。
そして散歩をしながら辿り着いたのは不二先輩の家。
このパターンで昔痛い目にあっているだけあって、無意識のうちに拒否反応を起こしてしまう。
『……』
無言を通す俺の顔をいつもと変わらぬ顔でのぞきこんでくる。
それがいやでまた顔をそらす
『ねぇってば』
近寄ってきた不二先輩の肩が右肩に触り、少し身体がびくついた。
『……知らない』
『知らないって?』
オウム返しに聞いてくるその自覚のない言葉は本当に腹が立つ。
いや、正しく言えばその余裕さが気に食わないのだ。
『知らないったら知らない!自分の胸に聞けば』
そう突き放したらうまく言いくるめる言葉が返ってくる、そう身構えていたら返ってきたのは少しの無言。
間が抜けてふと振り返った。
『………。……うん、わかった。胸に聞いてみればいいんだね?』
『……?――――……!!っっな、何してんすかっ?!』
振り返った俺の胸に顔をうずめてくる。
その行動の意味がわからず、困惑する。
怒っているはずなのに頭とは関係無しに上がってゆく心臓の音を聞かれてしまう、と必死に逃げようとするが抱きつくように抑えられ、身動きがとれない。
『何って…越前くんが胸に聞け、っていうから』
『俺は自分の胸に聞けっていったんすよ!誰も俺の胸にきけなんて』
『あれ……?』
そういって顔を俺の前まで持ってきた不二先輩の口元がニッ、とつりあがった。
その表情はいつもの気に食わない余裕に満ち溢れた顔。
『もしかして忘れちゃったの?昨日の夜僕達……』
『わぁあぁっっっ!!!!』
誰か他に人がいるでもないのにその言葉を聞きたくなくてあせって言葉を止めさせる。
その押さえにかかった俺の手をとり、甲に軽くキスをすると満足そうな顔を向けられた。
『ね?君は僕のもの、僕は君のもの。何か間違ってるかな?』
『!!!』
最早その赤い顔は隠すことが出来なかった。


あの人、いっつも確信犯なんだよね。
俺が慌ててるのをみて楽しんでるとしか思えない。
どこであろうが誰がいようがそんなことおかまいなしだから余計にたちが悪い。
だから俺が先輩を驚かせたい、常々そう思っていた。
そんな事を考えて学校にいるときだった。
「越前くん!」
外から聞こえてくる聞き慣れた声にハッと我に返った。
気づけば授業が終わっていてクラスの人が購買へと走ってゆく。
気を取り直してもう一度窓の外を見ると予想通りの人物が何かを持って笑顔を浮かべていた。
「ねぇ越前くん、一緒にお昼食べようよ」
そういって指す指の先は屋上。
この時間、このタイミングを考えるとやはり不二先輩が持っていた物は弁当だったらしい。
「…………」
リョーマは無言で教室をでてゆく。
他の人がみたならただ無視をしているのかとも思うがこの人物はその行動の意味を悟って吹き出したように笑う。
「っとに可愛いよね、越前くんって」
本当に嬉しそうに1人で笑うその顔は満足に満ちあふれている。
誰かに見られようと構わないという感じで振る舞うその態度は誰が見ても一目瞭然だろう。
不二も軽い足取りで校舎内へと進んでく。
こんな様子もごく日常の出来事となってしまって驚く者は最早だれもいない。
あの手塚ですらあの反応だ、不二がリョーマにどんな行動をとっているのか目に浮かぶ。
リョーマは教室をすぐに出ていたものの、階段で足をとめていた。
自分が先に行って不二を待っているのが気にくわない、ただそれだけの理由で。
今の今まで不二の事を考えていただけに動揺が奔っていた。
いつもこういうタイミングで現れる。
だから余計に驚いてしまって悔しさだけが積もっていっていた。
「…………」
頭ではうんと遅く行ってやろうと思っているのに足が早く逢いたいと早く動き、目の前には屋上のドアが立ちはだかっていた。
リョーマは大きな深呼吸を1つするとドアノブに手をかけた。
キィィィ……
重く、古めかしい音でそのドアが開く。
急に入ってきた光が眩しくてリョーマは目を細めた。
目の前に広がる白い世界には心地よい風が吹き抜けていて火照った身体を和ませる。
だがそんな馴染んだと思った身体もすぐにその熱を思い出す。
「……っ」
目のくらみがとれて初めて入ってきた人物、それは屋上の特等席に構える不二。
「遅いよ、越前くん」
その笑顔に心臓を早めてしまう自分がリョーマは嫌いだった。
そのまま足を進め、不二の前に腰を落とす。
太陽の熱で暑くなっている床が制服を通して肌に伝わってきた。
「…誰もいないんすね」
この屋上にはリョーマと不二の2人だけしかいなかった。
いつもこの時間になると混雑しているはずのこの場所が誰もいないなんてありえない。
疑問に思って当然だった。
「アレ?越前くん見なかったの、あの張り紙」
その視線が指す先は入口のドア。
はっきり言ってそれどころではなかったリョーマは小さく首を横に振った。
「何か立入禁止とかって張り紙してたじゃない。朝HRで聞かなかった?」
「聞いてないっす」
なら何でここにいるんだ、そう思ってしょうがなかったリョーマだがこの男に理屈なんて通用しない。
勿論張り紙を張ったのは不二だったし、HRでもそんなこと先生が言っていたわけもない。
だがそんなこと、リョーマには知る由も無かった
「じゃ」
そう言ってリョーマは急に立ち上がる。
その行動の意味が解らずに不二はリョーマの細い手首を捕らえていた。
「どうしたの?何か忘れ物?」
少し首を傾げて聞くその姿にも心臓が1つ跳ねて顔が赤くなりそうになったが必死にその衝動を抑える。
リョーマは手首を掴まれたまま身体は入口へと向いていた。
「だって立ち入り禁止なんでしょ?それに俺不二先輩と一緒にお昼食べるなんて一言も言ってませんから」
その言葉を聞いた後にクスっと不二が笑ったのをリョーマは聞き逃さなかった。
また自分は何かこの人を喜ばせるようなことをしてしまったのだろうか、そんな不安に襲われて振り返ると不二が本当に面白そうに笑みを浮かべていた。
「へぇ、そうなんだ。その手にお弁当まで持って?」
リョーマがはっと反対側の手を見るとその手にはしっかりと握られた弁当箱。
無意識のうちに持ってきてしまっていたそれを見てリョーマは顔を赤くする。
だが不二には逆光で見えていないはずだ、しかしそれを悟られては困ると思いリョーマはまた反対側を向いた。
そして歩きだそうとしたまさにその時、今度はため息が1つ耳に入る。
今度は何なんだ、と思いつつもいちいち構ってはいられないと思い振り返らずにいるとくいっと手をひっぱられたような感じが襲った。
「………!!!」
急に視界がぐらついた。
今まで背を向けていたはずの太陽がいつの間にか真上にきている。
そしてひっくりかえったはずのその衝撃がなく変わりにあるのはふわっと自分を包み込む何か。
その何かから良く知った、心地の良い香りがしてきてそれが今目の前にいた不二なのだということを悟る。
「………何のつもりっすか、先輩」
すぐにでも突き飛ばしたいのにその香りが心地よくて突き放すことが出来ない。
それを知ってか知らずかこの張本人は本当に楽しそうな声を漏らす。
「いや
「………」
そこまではっきりと言い切るか、と頭が痛くなる思いがしたがここでその言葉を放っても悪い展開にしか発展しないような気がしてリョーマは深いため息を漏らす。
「だって、このまま終わったって楽しくないじゃない?」
その不吉な言葉を聞いて意味を理解した時にはもう遅かった。
今まで抱きしめられていたはずのその手は両手首へと回り、視界が更に急転する。
目前には満足げな不二の顔があり、リョーマはいっそうその苛立ちを隠せずにいた。
だがその光を浴びて金色に輝く不二の髪の毛がさらさらと光ってつい見とれてしまう。
「もっと一緒にいたいじゃない?それに……」
その笑みに何か妖しい物が混ざって、開かれた瞳の中にはリョーマしか映っていなかった。
「屋上で、ってのも初めてだし、ね?」
それを聞いてリョーマは何故か面白くなった。
その顔に予想外の表情が浮かぶリョーマを見て不二は一瞬驚く。
「まだまだっすね、先輩も」
その言葉を理解するよりも早く、リョーマが動く。
抑えられていた手を振りほどいて不二の細い首に絡みつく。
その手に一瞬力がこもって不二が体制を崩した。
そのタイミングを逃さずにリョーマの顔は不二の顔のごく目の前までに近づけられる。
リョーマが勝利の笑みを漏らした。
「隙あり」
リョーマの唇と不二のそれが重なる。
不二は何がなんだか状況がつかめていない。
初めてのリョーマからのキスに驚きを隠せない反面、嬉しさなど色々な物が一気に混ざり、考えを進めることができない。
ただわかっているのは自分が何よりも大切に思っている人物が今目の前にいること。
そっと離されたその唇と同時にするりとリョーマが不二の脇からすり抜けた。
その勝ち誇った顔を不二は見ていない。
「もっと一緒にいたいんじゃなくてずっと一緒にいたいんすよ、俺は」
その言葉だけを残してリョーマが屋上を後にする。
そこに取り残されたのは先程の体制のまま固まっている不二と自分の愛しい者が残していった暖かさ。
不二はずるずると床にもたれ込み、仰向けになった。
その顔は赤く染められていて今までに見たことがない。
この男を驚かせる事自体そう滅多にない事なのにここまでになるなんて地球がひっくり返りそうな勢いだ。
「………っとに、越前君には敵わないよなぁ……」
その言葉は静かに風に流されて聞きとげる者は誰1人いなかった。


“俺さ、絶対にあんたを驚かせてやるから!
お前には敵わない、って言わせてやるんだ。
だって、あんたもドキドキしなきゃ不公平だよ。
だから俺だけを見てて。
目を離したらあんたの負けだからね。
その変わり俺も、あんたしか見ないから”


END


------------------------------------------------------------------

どうも、毎度お騒がせしております夜兔でございます。
今回は初不二リョ!!書きたかった!!あぁ、書きたかったとも!!
この頃何をやっていても「あはっ不二リョ」「ぐふっ不二リョ」
と本当に妖しい奴をやっております(^^;)
こんかいの1+1=∞、2人の想いは尽きることはないよ、という意味だったりしてみたのですが……何がだ、って話ですよね(苦笑)
何を言いたいんだかよく解らない話になってしまってすみません(><)
初めての不二リョ、がたがたでした(吐血)
修行してきます(涙)

夜兔禾紫 16:50 2002/05/19

-------------------------------------------------------------------