Day By Day




知らない街に行くのが好きだった。
小さい頃からずっと“冒険”と称しては色々な町に一人で出かけ、親父に怒られてたっけ。
それを優しく微笑みながら見ていた母さん。
そんな……遠いアメリカでの話。
不二先輩にせがまれてそんな昔話をしたけど、正直後悔していた。
理由は……不二先輩ならでは、といった感じで。
「ねぇリョーマくん、僕と一緒に旅行しようよ」
こんなわけのわからないことを言い出したのだ。
この人の脈略もへったくれもない話題提起にはいつだって驚かされる。
「訳わかんないっすよ、不二先輩」
そして俺はいつもそんな返事を返しているような気がする。
幾度も繰り出されるそのわけのわからない言葉に付き合える程お人よしじゃなかったから。
だけどそんな俺の返答にも不二先輩はお構いなしだ。
「だって知らない町に行くの好きなんでしょ?」
その笑顔は不動だと思う。
俺は常々そう思っていた。
「だからって何で不二先輩と一緒に行かなくちゃいけないの?」
答えは解りきっている。
だって相手は不二先輩だ。
そこまでわかりきっている自分が時々いやになるけど……
『リョーマは僕の物だから』
そう重なった2人の声を見合わせて、二人は笑った。

二人が何時間かぶりに大地に足をつけたそこは、東京から遠く離れた地だった。
「やっぱ広いよね、北海道って!」
「東京が豚小屋なんすよ」
そういう二人の眼下に広がるのはひたすら緑の光景。
あれから有無を言わさず連れてこられたのは飛行場。
そしていまここは…遠く離れた北海道。
少し歩いたどころじゃなんの変わりのない自然。
唯一の道路、国道を取り囲むのは一面の畑と木々。
そこには写真で見たような麦を大きく巻いたロールが置いていて、近寄って見ると自分の身長より大きなそれが、全て牛のえさにされると聞き、少し驚いたりもした。
どうしてそんな体験が出来るかと言えば……
「ねえ先輩。どうしてタクシー拾わなかったの?」
二人でこの大平原を歩いていたりするからなのだ。
大空には「十勝晴れ」と称される澄み渡った青空が見れ、北海道と言えど気温が高い方に属されるこの地域では「ちょっとあったかいかな」といった程度では済まず、にわかに汗をかく。
するとそんな右手をぎゅっと握り締め、いつもの笑顔は降ってくる。
「せっかくこんなところまで来てるんだから邪魔されずにずっと一緒にいたいでしょう?」
「……よく言うよ」
その言葉は聞こえていただろうか、それともこの大空に飲み込まれてしまっただろうか。
上を仰ぎ見ると、ほのかにオレンジ色に染まった空が手招きをしていた。

「もっとリョーマの、昔話聞かせてよ」
時々道路に申し訳なさそうにたっている電灯が照らす道路の端を歩きながら不二先輩は言った。
たとえここが田舎とは言え、空港の近く、という事で車がぽつぽつ、とではあるがなかなか絶えないこの車道の真ん中を歩く事が出来ないのが少し悲しい。
「いやっすよ。さっき俺が話しちゃったばっかりにこんなことになってるんだから」
そんな事を自分で言っているにも関わらず、何かムナシクなってしまう。
そう、この不二先輩相手に迂闊な事は口走れない。
「あははは。いいじゃない、そんなに警戒しなくたって。僕が何かしたでもあるまいし……」
さらりと言うあんたが凄いよ、と半分呆れながら不二に向けた視線の先には何を考えているんだかわからない笑顔。ため息が出て当然だ。
「俺あんたを尊敬するよ……」
先輩は光栄です、と冗談混じりに笑って見せた。
ここを何時間歩けば町へ出られるのだろう。
そんな見当も全くつかないこの状況で交わされる会話としてこれは適当なのだろうか。
あの人が何か考えてる……とは微塵も思えない。
どうせそんな事を聞いても「リョーマくんのことしか考えてないよ」だとかなんとか言うだけなんだ。
「それよりさ、あんたはどうなの?」
そう唐突に切り出したのは果たして成功だったのだろうか。
不二先輩は「ん?」とこっちを振り返った。
「俺にばっかり聞いてないで質問くらいさせてくんない?」
不二先輩は顔に満面の笑みを浮かべる。
それはいつも俺で遊ぶ時のような表情で反射神経…というものだろうか、そんなものがはたらいて一瞬身体が萎縮する。
「どうぞ何なりと、お姫様?」
やっぱり自分をからかっているのだ、と思いはするものの、いつもの“慣れ”で今は怒る気力すらない。あちらもそれを知っての仕業だろうか。
「“輪廻転生”って不二先輩は信じる?」
「……え?」
むこうもそうくるとは全く予想していなかっただろうか、間の抜けた返事が返ってくる。
だけど先輩は何かを悟ったかのように俺に身体を寄せて顎に細い指をかけた。
「あれ?お姫様。それってやっぱり“生まれ変わってもあなたといたい”っていう愛の告白?」
「んなわけないでしょ」
即答されたのにダメージを食らったのか、先輩は道路の端に座り込んでいいんだいいんだ、と拗ねたりしているのを見て、どうしてこの人のテンションはこんなにハイなのかと神経を改めて疑ってしまう。
うるさく騒ごうが、静かに歩こうが、風は何の隔たりもなく吹き抜ける。
そんな風に大地の香りが混ざっていて、「やはりここは北海道なんだ」と再確認なんかしてしまう。
「ねぇ、どう思うの?」
覗きこまれて観念したのか、はぁ、と苦笑交じりのため息を吐きながら不二先輩は口を開く。
「僕は……信じないよ」
「……ふぅん」
心の何処かで先ほどのような答えを期待していたのか、どことなく寂しい感じがしてしまう。
不二先輩は遠くを見つめて話を続けた。
「僕が誰の生まれ変わりだ、とか死んだら転生してまたこの地球に人間として生まれてくる、とかそんなの僕にしてみれば何の興味もないんだ」
その時やっと雲の合間から顔を出した月が…道路に一筋の道を作った。
それは今2人の進むべき方向を指し示しているようで…
「だってさ、もしそんなのがあるんなら僕きっとシャーマンファイトとかやってるよ」
そう言ってはははは、と笑う顔にはいつもの仕組まれた笑みではない、本当の「笑顔」がある気がしてどこか胸が苦しくなるような感覚に襲われる。
「僕にとって大事なものは“今ここで生きている”事なんだよ。
リョーマと一緒に笑って、一緒に部活をして、一緒にご飯を食べて……そして一緒に北海道に来ていて……」
「………」
月が照らし出した一筋の光の道に足を踏み入れたからか。
それとも大地を吹き抜ける風が誘導したからか。
俺は、先輩から目が離せなかった。
「“リョーマといる今”が一番大切なんだ。それ以外なんの意味もない。だから………」
そういって硬く握りしめられた手からは不二先輩の暖かさが伝わってきた。
とても…とても大きな手。
「この手……離さないから。離れたいって言っても離してなんかあげないから」
そう、ただ……それだけで……
その握り締められた手を離したくない、というのは……自分も同じで……
握り返したその手を月に掲げた。
「俺だって離してなんかやりませんよ、先輩のこと」
開かれた目が丸く自分を映し出す。
不二先輩はははは、とまた笑った。
「光栄でございます、姫君」
その口付けは、天からの忘れ物のようにやさしくリョーマに落とされた。


いつも恋人と一緒にいる事を自慢するヤツがいるなら
俺はいつもいっしょにいられるわけではないこの状態を自慢しよう
離れていたってちっとも不安なんかにならないこの関係を自慢しよう
そう、日々は積み重ねられていくもの。
落ちてゆく砂時計と一緒に時を刻むもの。
だからこそ、「今」を大事にしたい。
過去の思い出に浸りたいんじゃない。
未来が欲しいんじゃない。
俺が欲しいのは、今、愛しい人と積み重ねてゆくこの時間。

Day By Day.

[END]


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久々の小説……になるのかな??
どうもこんにちわ。夏休み真っ只中の夜兔禾紫です。
今回もわけのわからんはなしですみません〜〜
夜兔、いつもプロットも何もなく「思いつき」で書くのですよ。
で、今回はカラオケで見つけた素敵な題名ぱぁと1.という事でやはりおもいつき。
あぁ…何かぶっ殺されそう……
あ!勿論作中に出てきた北海道のイメージ、
全部が全部あぁだ、というわけではないのでその辺ご理解の程を…(^^;)
夜兔が知っている風景はこんな感じよ、ぐらいで、ね(汗)
ちなみに北の国から=北海道の全てと思ってはいけないぐらいこのお話もあいまいですので
ご勘弁下さいませ(−−)
ここまでのお付き合い、ありがとうございました!

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