BLACK & SWEET
〜この世で一番甘いもの〜





「…………は?」
「すぐにお返事をくださらなくてもかまいませんよ」
 小柄な少女の前にある綺麗な顔がニッコリと、一見人が良さそうに見えなくもない笑みを浮かべた。
 もっとも髪も真っ黒瞳も真っ黒、学生服(学ラン)も真っ黒でそのうえ腹の中も真っ黒のこの青年の正体を嫌という程知ってい る少女には、悪魔の微笑みにしか見えなかったが。
 それもすこぶる質の悪いものだ。もっとも質の良い悪魔など存在しないだろうが…。
 少女と青年は幼馴染みだった。
 保育園の頃から一緒に成長して来たのだ。
 だから少女、リナにとって、ゼロスの考えてる事なんてお見通しだった。
 お見通しだと思ってた。
 …今この瞬間までは。
「リナさんにとっては、突然でしたでしょうから、驚かれたでしょう。…そうですね、1週間後の体育祭までは、今まで通りに付 き合いましょう。その後にでもお返事を頂ければ、ということで。…では」
 下を向きっぱなしの少女の反応をどう受け取ったのか、自分の言いたい事だけ言い終わると、青年はさっさと歩いて行ってしま った。
 毎度の事ながら自分勝手な性格なのである。もっともそれは少女にも当てはまる言葉だったが。
 だが、今回ばかりは少女も仰天したようである。
 何故なら青年は少女にとっては晴天の霹靂とも言うべき言葉を告げたからである。
(つ、つ、つ、付き合ってくれって…何なのよ〜〜〜〜〜っ!!!)
 少女は暗くなるまで呆然とそこに突っ立っていた…。


「だぁかぁらぁ! 勝たなきゃ意味ないのよっ!!」
 リナは目の前の見なれた顔に向かって力説する。
(と…こいつらのことだから帰ってくる答えなんて分かりきってるわね。正義じゃない、戦えません、ってとこかな)
「でもでも…好きな人と勝負するなんて、正義じゃないです…」
「そうですわ、リナさん。わたくしガウリィ様と戦うなんて出来ません!」
 少女の幼馴染みでなおかつ親友でもあるアメリアとシルフィール。人様に言わせるとほとんど呪われているのではないかという ほどの腐れ縁の所為で、家族よりも誰よりもお互いの性格を把握しきっている。とはいえこうまで予想通りの台詞を返してくると は思わなかったらしく、リナは一瞬拍子抜けした様な顔をした。
(独創性がないわねぇ。っていうかいいかげんパターン読めちゃってる自分も何か嫌だけど)
 それでも少女にとっては、親友の思考パターンを把握しているという確証を得られたのだ。後はどうやって二人を説得するかで ある。
(フム。こいつらだしねぇ…)
「あんたらさ、恋の主導権、握りたくない?」
「恋の…」
「……主導権???」
 アメリアとシルフィールはポカンとした様にくり返すと、顔を見合わせた。
 リナはわざとらしく溜息をついて、肩をすくめてみせた。
「アメリア、今度の体育祭のこと、ちゃんと分かってる?」
 アメリアは一瞬考えこんで大きくうなずいた。
「もちろんです。普通に体育祭を行う為に全校生徒が出席番号奇数生徒の『奇数組』と偶数生徒の『偶数組』に別れて戦うんです よね。そして私達生徒会のメンバーも二つのグループに別れて戦って、勝った方が主要な『役職』につきます」
「なら、分かってんでしょーが。うちの学校はふっざけたことに人気投票なんかで生徒会メンバーを決めた上、あまつさえ正式な 役職を決めるのに、『体育祭で勝った方が上』なーんて条件をつけてんのよ!?勝負して勝たなきゃ、『副』生徒会長だの、『副』 書記だの、『副』会計になっちゃうわけよ!!」
「はぁ…別に良いですよ。わたしはゼルガディスさんの補佐が出来るならそれで…、きゃっ♪」
 リナは呆れたように半眼になったが、結局勝手にてれているアメリアはほおっておいて話を続けた。
「言っておくけどね、体育祭で負けた方って生徒会で補佐的な役割を与えられるだけじゃないのよ。さっきも言ったけど、恋愛の 主導権も握れなくなっちゃうのよっ!」
 力説してテーブルを叩くリナに、ポカンとして首を傾げるアメリアとシルフィール。
「だぁぁっ、もうっ!! つまりぃ、もしあんた達ががんばって勝てれば、あたしは『生徒会長』、アメリアは『書記』、シルフィ ールは『会計』って役柄を与えられる訳じゃない? で、ガウリィは『副・書記』、ゼルガディスは『副・会計』になるのよね? こ れがどういう状況だか分かるでしょ?」
「どういう状況って…え〜と……。あっ、それよりリナさん、あたし達が頑張るだけじゃ勝てませんよ。リナさん率いる『奇数組』 のメンバーが一致団結しないと…」
「そんなもんは、脅しをかけるなり、弱味を握るなりして死にものぐるいで戦わせればOKよ!! でもねぇ、いくら『奇数組』 のメンバー全員が本気を出しても、あんた達が本気出してくれないと困んのよっっ! 生徒会メンバーが稼ぐ点数のほうが、一般 生徒の点数より桁違いに大きいんだからさ。それより、さっきの話!!! あんた達が生徒会の主要な役職に付けば、仕事の分担 とかも自分で決められる訳じゃない? それって、『二人っきり』の状況を作り出すのに有効なのよ? そこんとこ、分かって る?」
「「ふ、ふ、ふ、二人きりですか!?」」
 アメリアとシルフィール、両名がハモリながらそろって身を乗り出した。
 リナは自分の思い通りの反応を返してくる二人に、こっそり笑みをもらした。
「そうよ。例えば重要な仕事がある時なんかにさ、この仕事、放課後までかかるんですけれど、今日一緒にやってくださいね〜、 なぁぁぁんて言っちゃって上手い具合にラブラブシチュエーションを作ることも可能な訳よ!!!」
「「二人っきりの放課後……」」
 この言葉はアメリア、シルフィール共に絶大なる効果があったらしい。
 両名揃って妄想の世界へと飛び立ってしまった。
 アメリア、シルフィールともに、「ゼルガディスさん、そんな…」だの「あ、ダメです。ガウリィ様」だのと呟いているが、い ったい何を想像しているのか、あまり考えたくはない。
「…と、いう訳でぇ、本気で勝負、してくれるのよね?」
 リナはにっこり特上の笑みを浮かべた。質問と言うよりは確認の為の言葉で。
 この二人にさっきが話は絶大なる影響力をおよぼす事は、計算済みなのである。
 そして案の定…。
「好きな人と勝負なんて…正義じゃありませんけど、二人の愛の為ですもんね」
「わたくしもガウリィ様と戦うのは心が痛みますけれど、『二人っきりの放課後』の為に、耐えてみせますわ!!!」
(いやぁ…。んな大袈裟に言われるとアレなんだが…。でもま、このノリなら大丈夫かな)
「っしゃぁ! ま、そんな訳でさ、多少卑怯な手を使ってでも勝つのよっ!!」
「え…卑怯な手……?」
「あっ、いや、あの…」
「卑怯な手ってなんですか!!! そんなのって正義じゃないです!」
 はっと慌てたリナがフォローを入れようとするが、時既に遅し。
 予想通りと言うより、ほぼパターンになりつつあるが、アメリアが過剰反応を起こし始めた。
 燃え盛る炎だか、くだけ散る波だかを背負って力説を始めようとする直前に、リナはその効果を十分に理解しつつ、狙った台詞 をポツリと呟いた。
「二人っきり」
「うっ……!!」
「愛の放課後」
「・・っっ!!!」
「深まる関係」
「・・・・・っっ………」
(うしっ、後一息!)
「その後二人は彼氏彼女になりました」
「・ぅぅぅぅぅぅぅ……………。はぁ……わかりました。協力します」
 アメリアという最大の難関が落としたリナが、満足の笑みを浮かべつつ、シルフィールを振り返ると…。
「ガウリィ様と二人っきり…。うふふ。そんな…ガウリィ様ったら大胆なんだから。いけませんわ、あ、ダメです…」
(…そっとしておこう、うん。何かすっっっごい幸せそうだし)
 リナは何も目に入らなかったふりをする事に決めたらしい。わざとらしく視線をそらせて、アメリアのみを見つめた。
「よしっ、ま、あんた達の協力を得られりゃぁ、百人力よねぇっ!」
 普段は滅多に素直な台詞を言わないリナの珍しい言葉に、アメリアは何やら照れつつも嬉しそうにしている。
「百人力と言うのは大袈裟だと思いますけど、出来る事は全力をつくしますねっ!!!」
「うんうん、そーして頂戴」
 リナは満足そうに頷いた。
 そこへ突如喜々とした声が振って来た。
「お前ら、こんな所でなにしてんだ?」
「あ…ルークさん、ミリーナさんも。お二人こそどうしたんですか?」
 目つきの悪い悪役顔の−−お前にだけは言われたくないわっっ!! byルーク−−黒髪の男子生徒と、最近この学園に転校して 来た銀髪の美少女、ルークとミリーナだ。
「俺たちは二人ででぇとだよっ(はぁと)」
「ずっとPC(パソコン)ルームにいたんだけど、帰ろうとしたら丁度喫茶店にいる貴女達が目に入ったから、寄ってみたの」
 ミリーナはあっさりきっぱりルークの言葉を無視した。
 後ろでルークが「の」の字を書いてたりするが、リナもアメリアもシルフィールもいい加減慣れているらしく、視線に入ってい ない様なふりを装った。
「っそ。あ、そうだ! あんた達さ、『偶数組』と『奇数組』のどっち?」
「わたしは『奇数組』よ」
「うおぉぉぉぉぉぉ……」
 と、突如ルークが泣き出した。
「だぁぁあっっ! 男が泣くのってうっとおしいわねっっ。大体、理由が予測ついちゃうのが嫌だわっ! ルークっ、あんた『偶 数組』なら、ゼロスの方でしょっ。近寄んじゃないわよっっ、敵よ敵!!!」
「ミリーナぁぁあ、俺はミリーナとは戦いたくないんだぁぁぁ…。はっ、そうだっっ! いっそのこと名字変えようか…」
 その場にいる全員が『阿呆かお前は!』と内心突っ込みを入れた事は言うまでも無い。
 表面上は無視したが。
「あたしは別にルークと戦ってもかまわないから」
 あっさり言い捨てるミリーナに、さらにしょげ返るルーク。梅雨の季節の押し入れのごときうっとおしさである。
「ぺぺぺぺーいっ!!! 男のくせにグジグジすんじゃないっ、さっさと出ていかんかーい!!!」
 リナは5、6発ケリを入れて、喫茶店から追い出した。
「それで…? 貴女達はなにをしてたの?」
 蹴り出したリナもリナだが、それを見ていてまったく気にも留めずに話題転換を計るミリーナも実は結構酷い。もっともアメリ アもシルフィールも何も見なかった様な表情をしているあたりで、ルークの行動がいかにパターン化しているかが分かる。
「うーん、ほら、体育祭のさ、準備の話よ。そうだ、どうせならミリーナもここで何か食べてけば?」
「ミリーナさんは引っ越してこられたばかりなので御存じないかもしれませんけど、ここのケーキ、美味しいって評判なんです よ?」
「よし、ついでにあたしも頼もーっと。マスター!」
「リナさんまた頼むんですかっ!? さっきも5品くらい頼んだでしょぅ!?」
「一々煩いわねーっ! あたしは太る体質じゃないんだしさ、今日は珍しく懐もあったかいんだもん。それで目の前に美味しいケ ーキがずらーっっっと並んでるガラスケースを見て、食べないなんて、人間として欠陥品でしょっ!! ってなわけで、アールグ レイと、苺のタルトとアップルパイ、それからガトーショコラとマロンクリームとピーチパイと…あと、スウィーティー頂戴。あ、 ミリーナも注文したら? スウィーティーはお勧めよ!」
「スウィーティー……?」
「ケーキよ。スポンジケージの上に、桜の花びらの砂糖漬けをまぶしてあるの。飾りにさくらんぼが乗ってるのよ。甘くて柔らか くて良い香りがして、滅茶苦茶美味しいのよ♪」
「じゃぁそのスウィーティーと…アップルティーをお願いします」
 注文を聞いたマスターが頷いたのを確認してから、ミリーナはおもむろにリナの方を向いた。
「ちょっと聞いても良いかしら?」
「あに?」
「生徒会のメンバーっていうのは、人気投票で決まるのよね」
「そーよ」
「それなら人気投票で1位だった人が会長になるわけではないのね?」
「あ〜…、そっか。ミリーナって人気投票が終わってから転校してきたんだっけ」
「えぇ。直後に来たの。だから仕組みとか良く分からなくて」
 リナは、どう説明するべきか問いかけるように、アメリアとシルフィールに視線を向けたが、肝心の二人は小難しい顔をしてノ ートに何やら書いている。リナがツンツンと服を引っ張っても全然反応が無い。
 リナはそんな二人を眺めて、仕方無さそうに唇を尖らせた。
「つまりねぇ…、うちの学校ってちょっと特殊なのよね。転校したてのミリーナは知らないと思うけど、生徒会が自治体みたいに なっててね、生徒間同士のいざこざとか細かい問題は、先生じゃ無くて生徒会が処分を決めるのよ。だから生徒達にとって人気投 票だけで会長が選ばれるのは不安要素が多すぎるのわけ」
「つまり…『人気』があり、なおかつ体育祭で自分の組織するグループを勝利に導ける様な『統率力』のある者が会長になるとい うことかしら?」
「ま、簡単に言っちゃえばそうね〜」
 …と、今まで黙り込んでいたアメリアがムックリとノートから顔を上げた。
「『奇数組』と『偶数組』の対決だけじゃなくて、会長候補通しの一騎討ちもちゃんとあるじゃないですか!」
「あれは…あれはおまけみたいなもんでしょーがっ!」
「おまけにしては点数配分が大きすぎます!! トータルで1000点分の競技が用意されている中で、100点ですよ! その 競技だけで十分逆転のチャンスがあるんですから、借り物競走は言うなればメイン競技です!!」
 リナはムッとしたように眉根を寄せた。
(あぁもぉ…折角あまり触れたく無いから黙ってたのに、アメリアのアホッ!)
「借り物競走を一騎討ちでやるのね。でも得点配分が100点だなんて、おまけの競技とはいえないわね」
 リナはあまり聞いて欲しくなかったらしいが、案の定というか何というかしっかりミリーナは突っ込んで来た。
「う〜ん…それはそうなんだけど……。っていうかねぇ…競技の内容が…ね、おまけっていうか遊びっぽいのよ」
「どんな内容なの?」
「つまり……会長候補のあたしとゼロスが、それぞれお互いの借り物を指定するわけよ。んで、競技の規定時間の間にそれを捜し 出すんだけど、なんつーか…問題を出す条件が…ね。『形容詞で構成されていなければならない』っていう…極めて曖昧なもんな のよ」
「形容詞…ですか???」
「そう。つまり『綺麗な物』とか『柔らかい物』とか、ね。実際にはもっと具体的に『軽くて黄色い物』とか、『厚くて短いもの』 とか、最大4つまでの条件をつけられるんだけどね」
 リナの言葉にミリーナはしばし考え込んでいたが、しばらくして首を傾げた。
「それって…出題者側の意図とは全く違う物を持って来る事もあるわけよね。その場合ははずれになるのかしら?」
「条件に相応しいかどうかは、生徒の間から選ばれた10人の『判定員』によって決められるの。だから出題者が考えているもの と全く違う物が持って来られても、『判定員』が相応しいと決めれば合格。んで、より条件に相応しいと判定された物を持って来 た方が晴れて生徒会長に選ばれる訳よ」
「それって…結構適当ね」
「だから遊びみたいだって言ったのよ」
「それで…条件はもう決めたの?」
「まぁだ。全然決まんないの。もぉ…並の条件じゃあいつにかなわなそうだし…。ゼロスってそういうこと妙〜に得意だし、悩み まくってんのよっっ! でも…絶っっっ対に負ける訳にはいかないから、何とかしないとねーー!」
「随分真剣ね。そんなに会長になりたいの?」
「だって…ゼロスに顎で使われるなんてなんか癪だし、あいつが会長になったら何かと理不尽な目にあいそうだしっ、それに…… …」
「それに?」
 リナが珍しく歯切れ悪く口籠っていると、大量のケーキを御盆に載せたウェイトレスがやって来た。
「お待たせ致しました。御注文のお品でございます」
 ほっとしたらしいリナは、下を向いて何やらグチグチとつぶやき始めた。
(ふぅ、良かったよぉ…。色々聞かれてると何だか芋づる式に『告白』の件がばれそうな気がするし。あれだけは誰にもばれるわ けにはいかないのよね。特にアメリアなんかにばれたりなんかした日には、目をキラキラウルウルさせて『協力』がど〜のとか言 って来そうだし…。はぅ…考えるだけでげんなりして来たわ……。大体ゼロスってば何考えてんのよっ。告白するならするで、も ちょっと時期を選べっ! なにもこんなクソ忙しい時に言って来る事ないじゃないのっっ!! ゆっくり考えてる暇もありゃし ないわよっっっ)
「何をゆっくり考えるんですか?」
 ……………。え?
「ななななな、何っ!?」
(アメリア、読心術でも身につけたわけっ!?)
「さっきからぶつぶつ言ってますけれど、どうかしたんんですか?」
「あれ? うそっ、あたしなんか言ってた!?」
「はい」
「え〜っと…何でもないっ! そう、何でもないのよっっ!!」
「ホントですか…?」
 アメリアは疑わしそうな目を向けたが、リナは絶対に白状するつもりはなかった。何とか誤魔化そうと、言い訳を考えつつ、視 線をあちこちに彷徨わせる。
 はっきり言って滅茶苦茶怪しいのだが、そんなことを気づかう余裕すらないらしい。
「あ、え〜と、ところでミリーナ、ちょっと頼みがあるんだけどさっ!」
「何かしら?」
「ルークってさぁ…あんなでて運動の成績はズバ抜けてるじゃない? 多分偶数組の点数稼ぎのかなりの部分を握ってると思う のよね」
「そうね。4種目出るって言ってたわ」
「うげっっ! そんなに? あ〜っ、どうせ点数が高い種目ばっかりだろうしな〜…。あのさぁ…ミリーナ、よくPCルーム使って るわよね。んでもってあそこって席取りの競走率激しいわよね。ものは…相談なんだけどさ、PCルームに生徒会の権限で席を取っ といたげるから、あたしのお願い、聞いてくんない?」
「………ルークの足を引っ張れっていうこと?」
 うっっっ、するどっっっ!!
「……ダメ?」
 リナはウルウルした瞳で上目遣いで見上げた。
 お願いモード全開である。
 これがゼロス、もしくはリナに夢中の男子生徒ならば一発で墜ちた事だろう。こう見えてもリナはもてるのだ。人気投票でゼロ スと渡り合ったことからもわかる。
 食欲大魔人で怒ると手が付けられないほどに狂暴化して、色気の欠片もないように思われがちだが、極たまに見せる可愛らしい 極上の笑顔に悩殺される者は後を立たない。その上運動全般もずば抜けている為、「お姉様(はぁと)」などと言って慕ってくる妖 し気な後輩の女子生徒にも事欠かない。もっともこのミリーナにはそんな魅力は通じなかったが、PCルームというのはかなりの誘 惑だったらしい。
 ミリーナはしばし考え込んでから、小さく溜息をついた。
「良いわよ。何にせよ、PCルームを毎日使えると言うのはありがたいことだし」
「よっしゃ! さーんきゅ♪ 助かるわっ!!」
 アメリア、シルフィール、ミリーナの3人の協力を得られると分かって、とりあえずホッとしたらしいリナは、やっと目の前に 運ばれて来たケーキを食べる始めた。今まであのリナが目の前の食料に手を付けなかっただけでも、どのくらい真剣だったか想像 に堅くない。


「んで、アメリア、シルフィール、あんた達さっきから何してんの?」
 とりあえず一通り食べ終わって、一息つくと、急に二人が気になって来たらしい。
 リナの言葉にアメリアはキッと顔を上げた。
「応援団の制服ですよ! リナさんは団長だから学ランで良いでしょうけど、私達はちゃんと制服のデザインを考えなきゃいけな いんですっ。チームの志気にも関わるんですから、リナさんもちゃんと考えて下さいよ!」
「やーよ。あたしまだ借り物競走の条件考え終わってないんだもん。そっちで手一杯。あんたらはあんたらの問題を片付けてよね。 こっちはこっちで考えるから」
 リナがあっさり返すといかにも不満そうな視線を投げて来た。
「あ〜のね〜っ、ただでさえ決める事が多い体育祭で、これ以上負担を増やされるなんてごめんなのっ。あたしも着るっていうな らまだしも、学ランで良い訳だし、ここは本人達に決めてもらうってのが一番でしょ〜がっ! それより借り物競走の条件よ。う 〜っ、どーしよっかなぁああああっ」
「学校の中に有る物じゃなければ、ダメなのよね……?」
「そりゃそうでしょーっ。校内で探さなきゃいけないんだしさ」
 突然リナが何ごとかを思い付いたかのように言葉を止めた。しばし視線を馳せていたが、ややあって
「待てよ…。そうよねっ、"校内"にあれば良いのよね」
 ニヤリ、と企みの笑みを浮かべた。
 そんなリナに、アメリアとシルフィールは不安そうな…というか不気味そうな視線を送る。対してリナは、今にも歌でも歌いだ さんばかりに上機嫌になって行く。
「いっつもあたしば〜っかあいつにはめられるなんて不公平よねっ。今度はあたしがはめてやるっ♪」
 我関せずとばかりに紅茶を飲んでいるミリーナの横で、否応なく巻き込まれる立場のアメリアとシルフィールが、心底不安そう な視線を交わしあっていた。
 果たしてあの"ゼロス"をはめるなんて芸当が可能なのだろうか−−−……?

 
 体育祭の当日、アメリアとシルフィールの応援衣装を見たリナは、一瞬気絶したい様な気分に襲われた。式が始まる前の張り詰 めた緊張感が、見る見るうちに萎んで行く。
「な、な、なぁ…なん…なのよ…。その、服…」
 げんなりした表情のリナの台詞に、アメリアとシルフィールはきょとんとした表情を見せた。
「え? 何処か変ですか???」
 スカートの端が捲れているとか、襟が曲がっているというような事を言われたと思ったらしい。慌ててお互いを確認し始めるが、 そういった意味ではないのだから、おかしい所などありはしない。
「別にどこも変じゃないですよ。ねぇ?」
「えぇ。わたくしもアメリアさんもちゃんとしていますわ」
 自分達の姿に全く疑問を憶えていないらしい二人に、リナは思わず頭を抱えた。
「あぁ…。もぉ良いわ。うん、いーのいーの。何でもない」
 怪訝そうな顔をする二人に適当に手を振ってみせる。問題は来方ではなくデザインだ。
 二人が着ている"応援服"は、何とも形容しがたい代物だった。可愛い事は可愛いのだ。だが何と言っても体育祭に着る類いの服 ではない。アンナ◯ラーズの制服を大胆に改造しまくった感じの、フリフリヒラヒラとしたデザインなのである。応援団と言うよ りはチアガールと言った方がまだしもピッタリした。
 スタイルに相当の自信がないと着られないであろうその服は、標準よりもメリハリのある体のアメリアとシルフィールが着る事 で、異様に目立っていた。
(あ、あ、あたし…学ランで良かったぁあああ…)
 リナが内心安堵の溜息をついた事は言うまでもない。
「で、それ、本当にあんた達がデザインしたの?」
 リナの問いに、アメリアとシルフィールはどことなくきまり悪そうに笑った。
「え、と、あの、ゼロスさんが…手伝って下さって天」
「……は?」
「ですから、ゼロスさんが…」
「二度も同じ事言わなくても聞こえてるわよっっ! あたしが言いたいのはねぇ、なぁんであんた達はよりによって敵の大将に助 けを求めるのかってことよ!! おまけにそんなこっぱずかしいデザインで決定してくれちゃって!」
「えぇ〜っ!? これ、可愛いじゃないですかぁ。ガウリィさんとゼルガディスさんなんか、軍服を基調にしたデザインですよ?  勿論似合っていて格好良かったですけれど…きゃっ♪ でもそれよりは私達の衣装の方がよっぽど応援団っぽいですっ!」
「そうですわそうですわ! ガウリィ様は本当に素敵でしたわっ!」
 話の主旨がずれている。完全に。
 だがそんな事をこの二人と論じあっていても無駄である。平行線のまま延々と話し合い続く事が目に見えていた為、リナはあえ てつっこまなかった。
「それで、準備は滞りなく進んでいるのね?」
「はい。全て順調です」
「あ、でも応援の競技に使う台の手配がまだ上手く行っていないようですわ。式が始まってから届くかもしれないとの連絡が入り ましたわ」
「っそ。じゃ、悪いけどそっちの手配の確認、もう一度お願い。あたしはゼロスに学ランを借りなきゃいけないのよ」
「あら、まだ借りていなかったんですか?」
「ん、まぁね。そんな訳だから何かあったら携帯に連絡頂戴」
「分かりました」
 そう言ってアメリアとシルフィールはなんとも言えない表情で微笑を交した。敵の大将に応援服のデザインを頼むなと言った張 本人が、当の敵の大将に学ランを借りに行くのである。事情を知らない者ならからかいたくなる状況である。だがリナが、アメリ アとシルフィールを知り尽くしているように、二人もリナを知り尽くしていた。照れ屋で恥ずかしがり屋なこの少女と、幼少の頃 から少女に夢中な黒髪の秀麗な青年の関係が、大分前からある微妙なラインを保っているのは承知している。自覚しているのか、 していない振りをしているのか、リナ自身がゼロスを憎からず思っている事も。
 だからこそ下手にからかったりしたら命取りだ。この少女に関しては、この「命取り」という言葉が冗談とは言い切れない所が 恐ろしい。
 とにかく二人は形容しがたい微笑を浮かべたまま走り去った。だがこの二人ですら事態が急転回している事を知らなかった。
 ゼロスの一週間前の告白など、知る由もなかったからである。

 
 お祭りが始まる前にも似た、高揚感に満ちたざわめきが遠くに聞こえる。リナは校舎裏の人気のない場所に向かって小走りに進 んでいた。ほどなくして来に寄り掛かるようにしてこちらを向いている見慣れた姿が目にとまる。
「待った?」
「いえ。僕が早く来過ぎただけですから」
 つまりそれは待ったという事だが、ゼロスの好意的な言葉に甘えて、リナはただ微笑むだけの挨拶で済ませた。そんな少女を何 処か満足そうに、そして幾分眩しそうに見つめる青年に気付いて、照れ屋だが意地っ張りな少女はわずかに頬を染めつつも、強引 に話を進めた。
「で、肝心の学ランだけど!」
「出来てますよ」
 足下に置いてあった紙袋から、クリーニング仕立ての制服を取り出す。
「適当に詰めてみましたけど…やっぱりちょっと大き目になっていると思います。男物ですから、詰めるといっても限度がありま すし」
 ゼロスの言葉に、リナはわずかに眉を下げて、どこか申し訳無さそうに微笑んだ。
「悪いわね、こんな事までさせちゃって」
 そんなリナの様子に、ゼロスは上機嫌な顔で首を振った。
「かまいませんよ。どうせ僕には着られなくなった物ですからね」
「あんたこの一年で伸びたもんね。今何cm?」
「ん〜。この間の測定の時には…178cmくらい…だったでしょうか…」
 青年の言葉に少女は目を見張った。つい最近までは、目線を上げればそこに顔があったのだ。だが今は見上げなければ目を見て 話も出来なくなってしまった。急激な成長が、二人のつかず離れずで安定していた関係を壊してしまった。リナは自分に視線を注 ぎつづける青年に、居心地の悪さと、昔から馴染んでいるがあまり認めたくない感情が沸き起こってくるのを感じた。それでも少 女は気付かないフリをよそおう。必要もないのに地面を睨み付けて、転がっている小石を小さく蹴って。
 そんな少女の様子に、青年は愛し気な笑みを、僅かに苦みの混じった笑みを浮かべた。
「とりあえず着てみて下さい」
 ゼロスの言葉に、リナはハッとしたように顔を上げて、こっくり頷いた。
 ゼロスはクリーニングの袋に入っている制服を取り出しながら、リナの後ろに回り、学ランを羽織るのを手伝った。同じ年頃の 少女なら赤面ものであろうこの行動を、リナはあっさり受け入れた。
 幼馴染みとしてゼロスと共に育って来たリナにとって、ゼロスのそれは、当然の行動だからである。これを見るだけでも、まわ りの男達はリナに手を出さなくなる。ゼロスがいかに包み込むように、そして周到にリナを守って来たかが分かるからだ。日毎こ んな行動を見せつけられては、如何に美少女であろうと手を出す気になどなれないのは当然だった。だからリナはもてる割には色 恋沙汰に疎い。
 もちろんリナは、周りの人間に見せつけるつもりなど毛頭なかった。それどころかちょっとでもからかわれるとリンゴのように 真っ赤になって、手が付けられないほどに暴れた(それをなだめるのはゼロスの役目だったが)
 だがゼロスは見せつけているのだ。
 意識的に。牽制の意味も込めて。
 つくづく頭の良い、そして性格の悪い青年である。
「あぁ、やはりちょっと長いですね」
 りなは憮然とした表情で、指先しか出ていない袖口を見つめていた。
「おかしいですねぇ。肩から手首までの長さに合わせて切ったはずなんですが…」
 そして少女の華奢な肢体を眺めると、なるほどと頷いた。
「リナさん、肩幅が小さいんですね。その分袖が下がってしまうんですよ。うっかりしていました」
 小柄な体を着にしている少女は、少々不機嫌そうに
「だからフィブから借りるって言ったのよ。あいつの制服ならピッタリとは言わなくてもこんなにブカブカじゃなかっただろう し」
 自分に負けず劣らず小柄なクラスメートの名を挙げた。最初リナは、このフィブ−フィブリゾ−から学ランを借りようとしてい たのである。だが独占欲が人一倍強いゼロスが、自分以外の男の服をリナが着るの傍観している筈もなく、昔の学ランを詰め直す からと、強引に話をつけたのだった。リナが不機嫌になるのも当然である。
「袖を折れば大丈夫ですよ。どうぜ応援団は長ラン気味なのが普通ですから。長くてもおかしくないですし」
「う〜〜〜〜…。変じゃ…ない?」
 ちらりとどこか恥ずかしそうに上目遣いで確認する。大き目の学ランに包まれた華奢な体と相まって、犯罪レベルの可愛さであ る。
 クラリ
 ゼロスは耐えた。
 理性と言う名の糸が、今にもぶっ千切れかけそうになるのを。
「すっっっっっっっっっっっっごく似合ってますよ♪」
 不自然なくらい「す」と「ご」の間が離れていたのは、そういう理由である。

 パンッという音と共に薬莢の香りが風邪に乗って漂う。それと共に生徒達は白熱した応援バトルを繰り広げていたが、リナ達は それどころではなかった。
「リナさん! さっき負傷した生徒が保健室に運ばれたんですが、肝心の先生がいません」
「何でよっ!? あ〜っ、もぉダルフィンセンセってばホントお祭り好きね! アメリアは救護班と連絡をとって応急処置をさせ て。あたしは先生の携帯に連絡するわ」
「リナさんっ、うちの応援用のオブジェに生徒がぶつかって一部破損しましたわ!」
「作成メンバーを呼んで至急修理させてっ。競技に出ている奴等にも確実に連絡が行くようにして」
「リナさん!! 予想外に来賓が多くて客席が足りないそうです」
「え〜!? もうっ、確か体育館裏の用具室にずっと昔のパイプ椅子が二、三百個あった筈だから、それを使って! 奇数偶数組 共に、手の開いている生徒に連絡して大至急で並べさせて!!」
「リナさんっ! 何か人数が多いと思ったら他校の生徒達が乱入していますっ」
「何よ。喧嘩でも仕掛けてくるの?」
「ただ楽しんでいるだけみたいです」
「じゃ、放送で『席は保護者に譲るように』って言って」
「はいっ」
 二、三分毎に何ごとかが起こるのである。即決しなければならない問題が次から次へと出て来たが、これを上手くこなす事で、 生徒会長に相応しいかどうかが見定められるのである。
 奇数組の応援団メンバー用のテントの正面に、偶数組のテントが張られている。遠目からも、慌ただしく人が走り回っているの が確認出来る。やはり向こうも嵐のごとき忙しさらしい。
 すぐそばのスピーカーから、先程リナが手配させた放送が流れて来た。
「さて、え〜、当校の生徒でない方、他校生が非常に沢山詰めかけていらっしゃる模様ですが、席が足りなくなっております。申 し訳ありませんが保護者の方優先ですので席は開けておいて下さい。以上だそうです。それにしても他校生も来るなんて随分な人 気ですねぇ。やはりうちの学校のお祭り好きの血が作り出した素晴らしいイベントのなせる業でしょう。そしてなんと言っても、 ゼロス・メタリオムVSリナ・インバース!!! やはりこの両名の会長候補対決は見逃せませんからね。4年前、創立80周年 のわが校始まって以来と歌われた名生徒会を作り上げた伝説の生徒会長ルナ・インバースと、副会長ゼラス・メタリオムの弟妹対 決といえば、誰しもが注目せずにはいられません! どうやらルナ会長とゼラス副会長の噂は他校にも広がっていた模様です。御 両名の実力は、大学の生徒会を取り仕切っている噂を聞き及ぶに、衰えを見せていないどころか、さらに強力になっているようで すが、その妹のリナ・インバースと、弟のゼロス・メタリオムもかなりの実力の持ち主のようです。何と、プログラムを半分こな した今現在、大事件と言われるほどのハプニングは起こっておりません! 当校名物のハプニングがここまで押さえられたのは、 ルナ会長以来ではないでしょうか。おそらく当校の歴史上2度しかないでしょう! これは増々『借り物競走』対決が楽しみにな ってきましたっ」
 大ヴォリュームの中継放送に、リナは頭を抱えたい気分に襲われた。

 
「リナさん、そ…ろそろ、応援…団の出番です」
 書け戻ってきたアメリアが、息を途切らせながら告げた。
「分かってるわ!」
 リナは学ランを羽織りながら呼ぶ。
「アメリア!」
「はいっ」
「シルフィール!」
「はい」
「分かっているとは思うけど、今の時点で奇数偶数組は両グループ共点数はほぼ同じ。でもこらからがまずいわ! 色モノが多か った午前の競技に比べて、午後は純粋に運動能力が問われる勝負よっ! 運動能力の高い生徒達は、殆ど偶数組に取られたわ。こ れはくじ運みたいなものだし、しょうがないでしょ。とにかく、私達が勝つ為には応援競技で大量得点をもぎ取る事、そして『ア レ』よ! 『恋の主導権を握る為』にも、気合い入れなさいよ!!」
「「はいっ!」」
 決意に満ちた少女達の声が、青空に響き渡った。

 
 闇色の髪に夜色の瞳。
 いつもは笑みの形で閉ざされている瞳がゆっくりと開く。
 後ろには金髪と銀髪の青年が、どこぞの軍服の様な制服を着て控えていた。
 この学園は、応援も競技のうちに入る。生徒会長候補を応援団長にし、己の組の応援をさせるのだ。
 その団結力と統率力を評価するわけだが、得点をいれるのは勝負の結果に関わりのない、先生、来賓、そして保護者達である。
 ゼロスは自分の組みの前に立ち、パチンと扇を開いた。
「さて、皆さん。御存知の通り僕は負けるのはあまり好きではありません。ですから…頑張って下さいね?」
 言葉の後に、優しい励ます様な微笑を浮かべた。
 この笑顔で、見物に来ていた他校生の女子と、保護者の母の90%が堕ちた。それを見ていた栗色の髪の少女が、八つ当たり気 味に学校器物を破損した事は、ちょっとしたおまけのエピソードだ。
 だがこの笑顔の裏を知っている学校生徒…特にゼロスのクラスの偶数組の生徒達は、全員が一斉に凍り付いた。まかり間違って 負けでも帰すれば、以後周到で執念深い仕返しが待っている事を一瞬で理解したからである。
 ゼロスは無論その効果を十二分に承知した上で微笑んだのだ。
 後にこの時のゼロスの様子を、後ろに控えていた某銀髪の青年が「黒いオーラを放っていた」などと証言した事は、ちょっとし たおまけのエピソードである。
「団長から団員達へのエー……ル!」
 青空に、金髪の青年の良く通る声が響き渡った。

 
「ゼルガディスさん、格好良かったです〜♪」
 ゼロス達の応援競技が終ったとたん、アメリアが瞳をハートマークにして呟いた。
 台詞のてっぺんについている名前の違いこそあれ、シルフィールも同じ状態か、それ以上に成り果てている事は言わずもがなで ある。リナは、王子様に骨抜きにされた恋する姫君達にジトッとした視線を送った。
「ちょっとあんたらっ! しっかりしなさいよ。次はあたし達の番よっ!!!」
「あぁ…ゼルガディスさん……」
「ガウリィ様…す・て・き(はぁと)」
「あんたらねぇぇええええ!!!!」

 
 先程のゼロスと同じように、リナも自分の組の前に立った。
 色素の薄い髪を風になびかせ、瞳には強気な光を浮かべて。小柄な体なのに素晴らしく存在感がある。
 後ろには元気ではつらつとした少女、アメリアと、清楚な美人のシルフィールが控えている。二人の服装は、勿論改造ア◯ンナ ミラーズだ。そのなかでリナだけが、少し大き目の学ランを着込み、きりりとして口を開いた。
「皆いい!? 放送でも言っていた通り、あたしとゼロスは"あの"ルナ・インバースと、ゼラス・メタリオムの弟妹よ。でもそん な事はどうでも良いの! あたしはあたしの為に戦って勝つのよ!」
 ほっそりした腰に手を当てると、パンッと勢い良く扇を開いた。
「カクゴきめてよねっ!!!」
 抜ける様な青空を背景に、少女は強気に言い放った。
「キャ〜ッ、リナ先輩っ、素敵ぃ〜〜〜!!!」
 会場のあちこちから悲鳴の様な歓声が上がった。リナは並の男子生徒よりも頼りがいがあり、リーダーシップをとれる性格の為、 下の学年の女子生徒達に絶大な人気を誇っていた。
 そしてもちろん、それは校内だけの話では納まらなかった。
 先刻ゼロスに魅了された他校生女子と保護者の母の70%が、今度はリナに傾いた。
「やはりあの人にはかないませんね。この勝負は計算通り切り捨てた方が良さそうです」
 肩を竦めて独りごちたのは、その少女に誰よりも魅了されきった、もう一人の会長候補だった。そして苦笑するように、だが何 処か楽しそうに、微笑を浮かべた。
 晴れ渡った空に、アメリアの澄んだ声が響く。
「団長から団員へのエー……ル!」

 
 応援競技は、奇数組(リナの組)の圧倒的な勝利に終った。
 応援競技が終ると、会長候補対決と並んで得点配分の高いリレー競技が行われる。リナのチームは、運動能力があまり高くない 生徒達が多かった。偶数奇数で分けただけなので、偶然なのだが、それにしてもなんとか勝利をもぎ取りたいリナにとっては痛い チーム編成だった。
 そこでリナが取った方法が、実に彼女らしい物だった。
 つまり……勝てば良いのである。
「さぁあていよいよ始まりましたリレー競技です。今回の体育祭で一番危惧された問題と言えば、偶数組と奇数組の運動能力の差 です。何故か運動系のクラブのエース格は皆偶数組に取られておりますが…今回のリレー競技でそれがもっとも響くと思われます。 いったいリナ・インバース率いる奇数組は強剛揃いの偶数組リレーメンバーにどう立ち向かって行くのでしょうか! 因に偶数組 リレーの選手は、ガウリィ選手、ゼルガディス選手、ルーク選手、そしてヴァルガーブ選手です、対する奇数組の選手は………」
 放送委員のメンバーが浪々と語っている声が響く中、リナは余裕の表情を浮かべつつ、テント内の自分の席に座っていた。すで に選手入場も済んで、今にも競技が始まる状態なのだが、何故かアメリアとシルフィールの姿はない。応援競技に使用した扇で、 パタパタと顔を仰ぎながら、リナはニッコリと上機嫌の笑みを浮かべていた。
 と、そこへ……。
「リナさん、随分と余裕の笑みですねぇ。何か作戦でも練っていらっしゃるんですか?」
 リナにとっては聞き慣れた声の主が、やはり余裕の笑みを浮かべつつテントの中に入って来た。
「偶数組の大将がよりにもよって競技の最中に敵方の大将のテントに来る? あんた何考えてんのよゼロス」
 それでも、ニコニコと上機嫌の笑みは浮かべたまま、リナはゼロスを見上げた。
「いやぁ、リナさんがどうしていらっしゃるかなぁと思いまして、ちょっと様子見に伺ったまでですよ」
「あたしはいつも通りよ。絶対に勝ってやるから、見てらっしゃいよ!」
「はぁ…それは楽しみですが……リナさん、アメリアさんとシルフィールさんはどうなさったんですか?」
 とぼけた笑みを浮かべつつ、ゼロスはあたりを見回した。
 リナは一瞬にんまりと満足そうな微笑を浮かべて、肩を竦めてみせた。
「別に? 水でも飲みに行ってるんじゃないの?」
「そうですか。ではリナさん、お一人で寂しいでしょう。僕が一緒に居てあげますからね」
「ばっ、な、何言ってんのよっ! 競技中に敵の大将同士が仲良く並んで応援するなんておかしいでしょうが!」
「まぁまぁ、堅い事を言わずに。ほら、始まりますよ?」
 ゼロスはいつの間にかリナの隣に椅子を持ってきて座りながら、リレーのスタート位置の方向を指差した。今まさに競技が始ま ろうとしているのを確認して、リナは一瞬不満そうにゼロスを振り返ったが、結局何を言っても無駄だと判断したのか、黙って競 技場の方に視線を戻した。
 それと同時にスタートの合図が始まる。
「位置について、用意……」

 パンッ!

 音と同時に二人の選手が走り出す。一人は金髪の選手ガウリィ、もう一人は小柄な少年フィブリゾである。
「おや。フィブリゾさんが選手だったのですね。確かに彼は体型の割には運動神経は抜群ですからねぇ。でも…幾ら何でも体型差 があり過ぎると思いますよ?」
 確かにゼロスの言う通り、体型の差は如何ともしがたかった。見る見るうちに両選手の距離が離れて行く。だがリナは余裕の表 情を崩さなかった。そんなリナのを興味深そうに眺めて、トラックに視線を戻したゼロスが、一瞬訝し気な表情をした。
 フィブリゾをかなり後方に引き離した筈のガウリィが、妙にギクシャクした走り方をしているのである。視線がある一方向に釘 付けになっているのに気がついて、ゼロスもそちらに視線をやった。
 そして絶句……。
「あらぁ、ゼロスってばどうかしたの?」
 リナが意地の悪い笑みを浮かべてゼロスを覗き込む。
 この青年が絶句するなどという光景は滅多に拝めるものではない。その理由は、相変わらずギクシャクとした走り方をしている ガウリィと、ゼロスの視線の先にあるモノの所為だった。
「あ…え…ぇ……と」
 同じく絶句していたらしい放送係が、どもりつつも律儀に放送を再開する。
「これ…は…どうなっているのでしょうか。アメリア嬢、シルフィール嬢、そして転校生のミリーナ嬢の3人が、そろいも揃って 敵であるはずの偶数組選手を応援しております。いったいどうなっているのでしょうか。美少女3人の応援グループ。チアリーデ ィングの様です! 衣装が衣装なだけに、危ない色気すら感じるほどです。悩殺されそうですねぇ…。そうこうしているうちにフ ィブリゾ選手がガウリィ選手を抜きましたーーーーーっ!!! ガウリィ選手、最初の走りはどうしたのでしょうか! 何だかロ ボットの様な走り方です。一向にスピードが上がりませんっ! そうこうしているうちにフィブリゾ選手が今まさにバトンをター ーーーッチ!!」
 放送の声にガウリィがはっとして急いで走り始めた。だが我を忘れて呆然としていた時間は決して短くはない。体型差があった とはいえ、既にバトンは次の選手に渡っている。トラックほぼ一周分の差がついてしまった今、既に勝敗は決していると言っても 良かった。
「成る程ね…。考えましたね、リナさん」
 ゼロスは苦笑するようにリナに視線を向けた。
「んっふっふ。まーあね。だってあんたんとこばっかり強剛の選手が入るなんて不公平じゃない? 敵の選手を応援しちゃイケナ イことはない筈だし♪ ただ勝手にガウリィがシルフィールに見とれているだけだしっ。正当な手段を使ってるんだから、オッケ ーよね♪♪♪」
「『正当な手段』…ねぇ…。自分の思い人が堂々とあんな格好で応援していたら…動揺するのが普通だと思いますけれど…。でも 流石リナさんですね。正直ここまで食い下がってくるとは思いませんでしたよ」
 ゼロスは感心とも呆れともつかない様な表情でリナを見つめる。その視線をどこかくすぐったそうに受け止めながら、リナは満 面の笑みを浮かべた。
「その衣装をデザインしたのは一体どこの誰よ。あたしを甘く見てると痛い目にあうわよ?」
「僕はリナさんを甘く見た事なんか一度もありませんよ。
「そう?」
「勿論です。大体リナさんが一度でも僕の思い通りになって下さった事がありますか…。本当に強敵ですよ……」
 最後のつぶやきは、この勝負だけを指したものではなさそうだった。
 それでも少女は気付かないふりを装って視線をそらせた。
「でも、僕も負けるつもりはありませんけれどね。この調子で行くと、勝敗は『借り物競走』までもつれ込みそうですね」
 ゼロスは何気なさそうにリナを覗き込む。
 新月の夜を覗き込んでいる様な気分にさせるその瞳に、少女は目眩を起こした様な気分を憶えた。
「おや、リナさんどうかなさいましたか?」
 全て承知の上で、ゼロスはわざと問う。
 勿論リナは強気に言い放つ。
「何でもないわ!」
「そうですか?」
「そうよ!!」
 少女の答えに、青年はまたそうですか、と頷いて視線をトラックに向けた。
 校庭中が放送の声と、生徒や父兄達の応援の声で満ちているにも関わらず、二人のいる空間だけがどこかから切り取られたよう に静けさを保っていた。
「あんたさ……なんだって…あんなこと………」
 視線をトラックに固定したまま、リナは聞こえるか聞こえないかの小さな声で問う。
 だがゼロスからは何の返事も帰って来なかった。
 リナは確認するようにゼロスの方を振仰いで、切ないほどに愛し気な光を浮かべた瞳を見つけて、体を固まらせた。リナは視線 に捕らわれた様な感覚に陥って、身動きすら取れないまま、ただゼロスの瞳を見つめ続けた。
 そんなリナを見つめながら、ゼロスは静かに口を開いた。
「"あんなこと"って…何の事、です……」
 問いに意味はなかった。
 ゼロスはリナの聞きたい事はとうに分かりきっていたし、それをお互いに知っていたからである。だがそれでもゼロスは問う。
「リナさん、答えて下さい。"あんなこと"とは?」
「………」
 リナは、見入られたようにゼロスを見つめるだけで、答えなかった。
「…リナさん……」
 ゼロスが、緩やかに腕を持ち上げて、リナのふっくらした柔らかな頬に手をあてた。リナは一瞬ピクリと体をそらしかけたが、 拒もうとはしなかった。ゼロスの、長い指が何かを確認するようにリナの頬を撫でる。やがてリナの唇にそっと指を這わせた。
 リナの瞳が、物問いた気に揺れる。潤んだ様な瞳と、ほんの少し開かれた唇に誘われたゼロスが、思いを遂げようとした…その 時。
「ただいま〜っ! 聞いて下さいリナさん! リレーは私達奇数組の圧倒的な勝利でした!!! ルークさんなんかミリーナさ んに抱き着いてしばらく離れなかった……って…あぁっっ!!!! あ…の……………」
 不粋な声の主は、目の前で起こっている事態を認識したらしく、妙な姿勢のまま固まってしまった。
 つくづくタイミングの悪い人間というのが居るもので、この少女がまさにそれだった。
 ゼロスは、目の前で複雑な表情を浮かべたまま固まっている愛しい少女と、後ろで青ざめたまま固まっている幼馴染みを交互に 見比べた。そして小さく苦笑するとそのまま立ち上がって、テントから出て行った。
 もちろん、去り際にニッコリ笑顔で『後で憶えておいて下さいね?』とアメリアに耳打ちした事は言う間でもない。

 
 ひんやりとした廊下を、リナとゼロスが並んで歩いていた。
 外は盛り上がった生徒達の声で満ちていたが、窓の閉められた校舎の中は、微かに声が伝わってくるのみで、静けさを保ったま まだった。
 どこかぎこちない動きをしながら、少女は足早に歩いていた。
 定まった目的地もなさそうだが、速度をゆるめる事はなかった。
 リナから半歩後ろをゼロスが追う。リナが精一杯速く歩いているのに比べて、ゼロスは余裕を保ったまま、どこか苦笑する様な 笑みを浮かべて大事な少女を見下ろしながらゆっくり歩いていた。
「リナさん」
 リナはゼロスの呼び掛けに答える事はせず、ただ足を速めた。
「リナさん」
 ゼロスは無視された事を気にも止めず、ニコニコと呼び掛ける。
「リナさん」
 無視を決め込んだリナが、僅かにピクリと反応したのを、ゼロスは見逃さなかった。
「リ・ナ・さん」
「だ〜〜〜〜っっ!!! 煩いわねっっ!!!! 何なのよあんたっ、何でついて来るのよ! 今借り物競走の最中よっ!? 何 であたしの後ばっかり追い掛けて来るのよっ!」
「だって、一緒に探しちゃいけないっていうルールはありませんよ?」
 あくまで笑顔を崩さずに、ゼロスは答えた。
 リナは呆れ返ったようにゼロスを見上げた。
「あの…ねぇ……確かに、そういうルールはないけど…」
「じゃ、良いじゃないですか」
「や…だから…ね……。……………はぁ。も…好きにしてよ…」
 溜息混じりのリナの言葉に、ゼロスはただ笑みを深めただけだった。
 そんなゼロスの様子に半眼になってリナは問う。
「そんな笑ってるって事は…もう条件に合う物を見つけわけ?」
「えぇ」
 あっさり返ってきた言葉に、リナの反応が一瞬遅れた。
「…え?」
「ですから、もう分かってるんですよ。条件は『甘くて柔らかくて香りが良くて美味しいもの』…でしたよね?」
「う…ん…。そうだけど…」
 リナにしてみれば、苦労して苦労して考えた問題だっただけに、あっさり分かったと言われるのは納得がいかないらしい。本当 に分かっているのだろうかとあからさまに疑わし気な視線をゼロスに向ける。
「リナさん、分かってます? この条件、数を多くすればするほど、借りる品物が限定されてきますよね。それって正解でさえあ れば、勝てる可能性が高まるんですよ」
「そ、そ、そんなこと分かってるわよ。でも…正解が分かんなきゃ意味ないでしょーが」
「ですから分かってますって」
 ゼロスの余裕たっぷりの微少に、リナの表情が憮然としたものに変わっていく。
「言ってみなさいよ」
「学校の前の喫茶店。あそこはリナさんお気に入りのお店でしたね」
「だ…だから……?」
「前にリナさんと御一緒した時、リナさんは『スウィーティー』というケーキを注文されましたよね」
「だ…だから…何……?」
 ジリジリと追い詰められて行く様な感覚に、リナは我知らず後ずさりした。
「その時、リナさん、こう仰ったんですよ。『甘くて柔らかくて香りが良くて、今まで食べた中で一番美味しいケーキだ』って」
「う…。で、でもっ、借り物競走では校内にあるものしか指定しちゃいけないでしょーがっ! あそこのケーキを表す様な表現を したら、ゲームは不可能。あたしが失格になっちゃうわよっ」
 リナの必死の言葉に、ゼロスは人の良さそうな微笑を浮かべた。
「ですから、そのケーキが校内にありさえすれば良いわけです。違いますか?」
「うっっっ………」
 ゼロスにあまりにもあっさりと答えられて、リナは演技をする余裕もなかったらしく、返答に詰まって一瞬視線を彷徨わせた。 だがすぐに瞳に強気な光を浮かべる。
「でも、まだ何処にあるかまではわかんないでしょ?」
 しかしこのゼロスの方が一枚も二枚も上手だった。
「『灯台元暗し』という言葉が…ありましたねぇ……」
「うっっっっ!!!!」
 今度こそリナの完敗だった。悔しそうにゼロスを睨んで、愛らしい唇を尖らせる。勿論そんな顔をしても、ゼロスを喜ばせるだ けだったが。
「僕の机の上とか、まぁそんな感じの所にあるのでしょう?」
「はぁ………。もぉ…何で分かるかなぁ!」
 リナは未だに悔しそうな表情を浮かべたまま、それでも何処か悪戯っぽい笑みを唇の端に浮かべて、ゼロスを見上げた。
「毎日リナさんの事ばかり考えていますからねぇ…。その所為でリナさんの思考パターンは大体把握済みですよ」
 ニッコリ笑顔でサラリと言われた言葉は、リナにとっては反応を返しにくいもので、無視を決め込んでまた勢い良く歩き出した。 だが目ざといゼロスが、リナの耳もとが赤く染まっているのを見逃す筈もなく、リナの後ろで小さくクスリと笑った。
「で、リナさんは僕の出した条件の品物を見つけられたんですか?」
 リナはむぅっとした顔で勢い良く振り返った。
「まだよっ! 大体『黒いもの』って何よ! 抽象的過ぎるのよっ!!」
「おや、そうですか? 簡単で分かりやすくて良いかとも思ったのですが…」
「あたしも最初はそう思ったわよっ。でも学校って意外に『黒いもの』なんて無いのよっ」
「それは…あまりに簡単過ぎたらつまらないでしょう」
「それはそうだけど…。も〜っ、『黒板』だって"黒"ってついてるくせに黒く無いしっ、第一あんなもの持ち歩けないし…。他に 黒いものって何よ。黒い教科書なんて無いし…。黒いもの黒いもの…」
 ブツブツとつぶやきながら歩くリナの後ろを、ゼロスは静かについて歩く。
 ゼロスの瞳に、悪戯な光が宿っているの事に、リナは気付いていなかった。
「今時の学生鞄なんて黒く無いし…。あーもーっ!…ホントに黒いものってなんなのよっっ!!!」
 癇癪を起こしたリナに、ゼロスが苦笑しながら近付いた。
「リナさん、あまり考え過ぎると疲れますよ。どうですか、ひとまず教室に行って、僕がケーキをとって来るのに付き合って下さ いませんか? どうせリナさんの事ですから、『スウィーティー』丸ごと一つ買っていらしたのでしょう? 半分くらい食べてし まっても条件には合いますから、一休憩といきませんか?」
「賛成っ!!」
 競技の最中だという事を忘れ去っているとしか思えない台詞に、即座に素直な返事が返った。

 
「へぇ、ちゃんとカットしてあるんですね」
「ん。あたしが頼んだの。ゼロスも食べる?」
「では、僕も一つ、御相伴にあずかりましょう」
 気紛れな二人は、暢気におやつタイムを開始してしまった。
 食べる事が大好きなリナが、美味しいものを食べられるチャンスなど逃すはずは無いし、ゼロスはゼロスで美味しいものを幸せ そうに食べるリナを眺めるのが大好きだったから、この展開はある意味では当然と言えたかもしれない。
「リナさんって…」
「あによ」
「昔から本当に美味しそうに物を食べますよね」
 幸せの絶頂という表情を浮かべて、ケーキを頬張っていたリナが、キョトンとした顔でゼロスを見つめる。
「そぉ?」
「あぁ…口の端に欠片がついてます。じっとしていて下さい……」
「うん…。って…なっ……ん……んっ………ぷはっ」
 リナは呆然とした表情でゼロスを見上げた。
 どうやって欠片を取ったかは、言わずもがなだろう。
 リナは真っ赤になった頬を押さえながら、涙目でゼロスを睨み付けた。
「あん…あんた…あんた………っっっ!」
「何ですか? どうかなさいました? ケーキ…食べないんですか?」
 人はこれを称して『いけしゃあしゃあ』と言うのであろう。まさに悪怯れ無しな態度で、ゼロスが問う。
 リナは怒りに震えながらゼロスの顔とケーキを交互に眺めていたが、怒っても無駄だと悟ったのか、やがて大人しくケーキを手 に取った。そんなリナの様子を、ゼロスが可笑しそうに見つめる。
「あぁ……まだ欠片がついてますね」
「んんっ!! んむっっ………」
 懲りずに同じ事を繰り返すゼロスに、リナは怒るよりも呆れた視線を向けた。
「あんたねぇ………」
「…何か?」
 答えが分かりきっている、余裕の表情を浮かべてゼロスは問う。だからリナは…、意地っ張りなリナは、ゼロスを困らせてみた くなった。
「嘘つき。口の端についたケーキをとるのに、なんで唇なのよ。その位置じゃ口の端についたケーキは取れないわよっ!」
 思いもかけない反論に、ゼロスは一瞬目を見開いた。ゼロスの反応に満足したのか、リナの表情が上機嫌な時のそれに戻る。
「嘘つきとは口きいてあ〜げない♪」
 リナの歌う様な物言いに、ゼロスは微苦笑を浮かべた。だが勿論そこで大人しく引っ込む様なゼロスでは無いのだ。
「取れますよ? 上手にすれば。試してみます?」
「いらな………っん………………いって言ったでしょーがっ!!!」
「そうですか? 聞こえませんでした」
 ゼロスは不思議そうに首を傾げてみせた。ゼロスの何時もは隠された瞳が開かれて、幸せそうな、楽しそうな光が揺れている。
「それはあんたが最後まで聞かないからっ………。も…良いわ。さっさと食べ終らないと」
 またもケーキに取り掛かるリナを、愛し気に眺めて、ゼロスはそっとリナに触れた。
「…何……?」
「先程…『なんだって…あんなこと』と仰ったのは……、『告白』の事ですか?」
「…………」
 リナは食べかけのケーキを恨めし気に戻して、ゼロスを見上げた。
「体育祭が終るまでは…今まで通りの付き合いで良いんじゃなかった?」
「でも…最初に質問されたのは、リナさんですよね? それに、こんな…………」
「……っ………」
「………事を受け入れていらっしゃるのに、今さらそれを持ち出すんですか?」
 ゼロスの綺麗な顔が、ゆっくり自分から離れて行くのを、リナはどこか夢見心地な瞳で見つめていた。
「リナさん…。リナさんは今まで一度も僕の事を"そういう"目で、見て下さらなかったんですか?」
 それなら、キスなど受け入れるはずが無いのだが、ゼロスはリナのはっきりした言葉が欲しかった。
「さぁね」
 リナはサラリとした返事を返しただけ。言葉とは裏腹に、林檎のように染まった頬が、『答え』なのだが。それでも、待って待 って、待ち続けたゼロスにとっては、まだ足りなかった。
「リナさん…『素直に』なって下さい……。ご自分の気持ちに『素直に』なっても、まだそんなことを仰るんですか?」
「…どうかしらね」  さらりと流して…、否、流そうとして少女はまたケーキに取りかかった。 「リナさん……」 「煩いっ、あたしはスウィーティーを食べてるの」
「でもリナさん……」
「煩いわねっ、あぁもぉ…欠片が学ランの上に落ちちゃったじゃない……。あ、黒い……」
 リナは呆然としたように自分の着ている学ランを掴んで見つめた。
「そーよ、学ランって黒いじゃない………。何で気付かなかったのかしら。あたしってば『黒いもの』を着てるし…まさに『灯台 元暗し』ね……」
「見つかって良かったですねぇ…」
 ゼロスは先刻の質問を諦めたらしく、ニコニコと笑いながらリナを見つめていた。
「あんた…分かってたのね?」
「…さぁ?」
「ほんっと嫌な条件だすわよねっ。人を食ってるとしか思えないわ」
「まだ"食べて"ません」
「………は?」
「いえ、こっちのことです。まぁ『灯台元暗し』というのを狙った事は否定しませんけどね」
「嫌な性格」
 愛らしい唇を尖らせるリナに、ゼロスは瞳を細めた。

 ちゅ

「何すんの! ケーキはもうついてないわよ!!」
「そういう表情をするからいけないんですよ。さて、二人とも品物を手に入れましたし、そろそろ行きましょうか」
 余裕たっぷりのゼロスの態度に、いつかぎゃふんと言わせてやる、とリナは胸に誓った。
 けれど、リナは知らない。
 泰然自若としたこのゼロスを慌てさせる事が出来るのは、自分の存在だけだという事を。
 リナの一挙手一投足に、何時だってゼロスが注目し、一喜一憂していることに。
 リナが望むようにゼロスを負かす事は、ほぼ不可能と言って間違いない。だが結局何時でも勝利者は彼女なのだ。


「おぉぉぉ。やっとお二人が帰ってまいりましたっ! 仲良くそろって御帰還です。では、条件に合った品物を持って、ステージ に上がって下さい」
 体育祭の間中、中継を続けていたアナウンサー役の放送部員が、既にステージ場に控えていた。
 小柄なリナが階段のついていないステージ台の上に登ろうとするのを、ゼロスが後ろからひょいと抱き上げて助ける。見た目だ けは人形のように可愛らしいリナと、モデルの様なゼロスのその行動に、会場中から溜息とも悲鳴ともつかぬ声が流れたが、当の リナは全く気付かずにいつも通りの表情でアナウンサーの隣に立った。
「さて、お二人にしては随分と時間がかかったように思われますが、それはさておき、条件の品物は見つかりましたか?」
「見つかったから返ってきたのっ!」
「それは…まぁ、そうですね。では、まずリナ団長、ゼロス団長が出した条件『黒いもの』に見合う物を見せて下さい」
「『黒いもの』は、今あたしが着てる学ランよ。学生生活の象徴でもあるし、応援団の団長が着る服でもあるし、体育祭に相応し いじゃない? これが、あたしの持ってきた『黒いもの』よ」
「成る程〜。確かに学生の象徴でもある学ランは『黒いもの』という条件に相応しいものですね。さすがリナ団長です。では、今 度はゼロス団長、リナ団長の出した条件『甘くて柔らかくて香りが良くて美味しいもの』を見せて下さい…と言う間でもなく、そ の箱の中身が条件の品物ですね? ちょっと見せて下さい。あ、ケーキですねぇ。何か半分しかないのがちょっと気になる所では ありますが、当校の前にある喫茶店の『スウィーティー』です。一体何故こんなものが校内にあったのでしょうか。もしや外に買 いにいかれたんですか? そうすると失格になってしまうんですが…」
 アナウンサーの問いに、リナが慌てて答える。
「違うわよっ、あたしが買っておいたの」
「成る程。それなら失格にはなりませんね。まぁ『スウィーティー』なら『甘くて柔らかくて香りが良くて美味しいもの』という 条件にもピッタリ合致しますね。それにしても御両名の持って来られた品物は、それぞれ条件にピッタリ当てはまります。勝負の 行く末は判定待ちということになりそうで……」
「待って下さい」
 それまで黙っていたゼロスが、人の良さそうな笑みを浮かべつつ、アナウンサーの言葉を止めた。
「僕は『スウィーティー』を持って返って来ましたけれど、それは借り物競走とは関係ありませんよ」
 ゼロスの言葉に、リナが驚いたように振返った。アナウンサー役の生徒もぽかんとした表情を浮かべている。
「ちょ、ちょっとゼロス!」
「で…では…『甘くて柔らかくて香りが良くて美味しいもの』という条件に合った品物は…何処に持っていらっしゃるんでしょう か…?」
「ここに」
 ニコニコ笑顔のゼロスに、アナウンサーの生徒はまたも狐に摘まれた様な表情を浮かべた。
「…え?」
「ですから、ここです。リナさんです。リナさんが、僕にとっての『甘くて柔らかくて香りが良くて美味しいもの』ですから」
 一瞬、会場中の全員が固まった。
 やはり相変わらず笑顔を浮かべっぱなしのゼロスと、とんでもない台詞に全身を紅く染めあげたリナ以外は。
「ゼ、ゼ、ゼ、ゼロスーーーーーーっ!!!! あんた何考えてんのよーーーーーーっっっ!!!!!」
 リナの怒声が会場中に響き渡った。
 その声に我に返ったように、アナウンサーがマイクを握り直す。
 同時に会場中がやんややんやの大歓声を上げ始めた。からかい半分のやじを飛ばす者、早くも祝福の声をあげる者、悲鳴のよう な声。だが大多数が祝福の言葉を述べているようだった。
「はっ、あ、の……。借り物競走に人間を持って来られたのは初めてではありませんが、こういう…事例は皆無です……。一体ど うなるのでしょうか……。そもそも手を繋いできた訳でもありませんし、認められるのでしょうか? ただ今判定員が相談してい る模様です」
 しどろもどろに解説するアナウンサー役の生徒に、ゼロスがチラリと視線を向けた。
「だって貴方さっき『条件に合った品物を持って、ステージに上がって下さい』と仰ったでしょう? 僕はちゃんとリナさんを抱 き上げてステージに"持ち"上げましたよ」
「は、まぁ、それは…そうですが」
 ゼロスの屁理屈に勝てるものなど居はしない。ただ一人、未だに全身を朱に染めた、ゼロスにとって誰よりも愛しい少女以外は。
「何であたしが『品物』なのよーーーーーーーーっっ!!! あたしは物じゃないわよっ!!!!!」
 リナは全校生徒と先生方、そして父兄達が見ている事も忘れて、ゼロスの襟首を掴んで揺すぶり始めた。真っ赤になって取り乱 すリナの姿に、会場中の誰もが『可愛い』、『愛らしい』という思いを抱いたが、リナ自身は勿論そんな視線には気付かなかった。 ただパニックに陥ってゼロスの襟首を締め上げるのみである。ゼロスが困ったように微笑んでそっとリナの手の上に自分の手を添 え、もう片方の手で会場の方を指差した。そうして始めて、リナは自分の置かれている状況を認識したのである。
「はい、判定が出た模様です。では、両選手…というかリナ団長の方がまだパニックに陥っているようですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よっ!」
 憮然とした表情で噛み付くように答える。
 そんな表情に、アナウンサー役の生徒までが、クスリと笑みを漏らした。
「では、判定の結果を発表します。勝者は…」
 判定員から渡された紙を開く間の一瞬の間。
 会場に居る全員が息を飲んだ。
「『ゼロス・メタリオム』!!!! ゼロス団長の勝利ですっ!!!!! と、言う事は、この瞬間に『偶数組』の勝利、ひいて は新しい生徒会長が決定致しましたっっ!!!」
「なんでーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
 リナは悲鳴の様な叫び声を上げたが、会場中の歓声にかき消されて、その声はアナウンサーと、ゼロスの耳にしか届かなかった。
 悔しそうな表情を浮かべるリナを見つめて、ゼロスが悪戯な微笑を浮かべた。
「何で負けたのか分からないという顔ですね」
「分からないわよっ」
 リナは、いかにも不満がありますと言いたげに唇を尖らせたが、先刻の出来事を思い出したのか、慌てて唇を噛んだ。そんなリ ナを愛おし気に眺めて、ゼロスは優しく微笑む。
「本当に…分かりませんか?」
「…だから分かんないってば」
「学ランよりも、『黒いもの』という条件に相応しいものがあると判定員達が判断したからですよ」
 リナはピクリと頬を引きつらせると、目の前のゼロスにしかめ面をして見せた。
「何よ、それっ」
「本当に分からないんですか?」
「だから分かんないって言ってるデショ!!!!!」
「…リナさん……何時もご自分で仰っているじゃないですか。『髪も真っ黒瞳も真っ黒、学ランも真っ黒でそのうえ腹の中も真っ 黒』って……」
「………………ゼ…ロ……ス…」
「先刻言いましたよね。『"灯台元暗し"というのを狙った事は否定しません』って」
 ゼロスはいつもの人の良さそうな笑みを引っ込めて、代りに何処か意地の悪い表情で微笑んだ。
「くぅぅぅぅぅぅっ! むかつく〜〜〜っ!!!!」
 リナは地団駄を踏んで、ゼロスを睨み付けた。
「ところでリナ団長…、いえ、リナ副会長」
 始めて新しい役職名で呼ばれたリナは、一泊の間を置いてからゆるゆると振り返った。
「…………」
「睨み付けないで下さいね。お忘れかもしれませんが…借り物競走の勝負に負けた側は勝った側の……」
「命令を一つだけ聞くんでしょっ! 分かってるわよそんなものっっ!!! だから負けたくなかったのにっっっ!!!!」
 握り締めた拳に力が入り過ぎて、真っ白になっていた。対照的に顔は真っ赤である。悔しそうにキッとゼロスとアナウンサー役 の生徒を睨み付けてから、だんっ、と床を踏み締めた。
「早くしなさいよねっ!」
「は…はい。では、ゼロス会長、リナ副会長に何をさせたいですか?」
「リナさん、応援服を着て下さい(はぁと)」
 ゼロスはいつもの人の良さそうな笑顔を一ミリも崩さずに速攻で言ってのけた。
「………は?」
「ですから、今アメリアさんとシルフィールさんが来ていらっしゃる『応援服』を、来て…出来れば踊ってみせて下さい♪」
 フルフルと震えるリナの横で、ゼロスはさらに上機嫌な顔でサラリと爆弾発言をかます。
「お、お、お…踊れ…だぁあああっっっ!? 何考えてんのよあんたわぁああああっっっ!!!」
「素敵なリナさんを見る事」
 先刻よりもさらに0、5秒ほど反応速度を上げて、ゼロスは答える。
「う……うふ…うふふふふふふふふっ…」
 リナが、怒髪天を突く、という状態から一転して満面の笑みを浮かべ始めた。
 だが怒りの表情を見せている時はまだ可愛さがあったのに、笑みを浮かべた今の状態は復讐の女神ネメシスの化身のようだった。 一見可愛らしく微笑んでいるあたりが恐ろしい。
 彼女を良く知る幼馴染み、クラスメート、アナウンサー役の生徒、そして担任教師は即座に避難体勢に入った。
 だが。
「じゃ、パスします?」
「…………は?」
「ですから、この『命令』は、パスしますかと聞いているんですよ」
 相変わらずのニコ目で、ゼロスはリナを覗き込んだ。
「は…あ、うん。そっか、パス有りだっけ。んじゃパス」
 瞬間、ゼロスの目の奥に楽しそうな、それでいて真剣な光が宿ったが、今だ興奮覚めやらぬリナは勿論気がつかなかった。
「では、次の条件をどうぞ…」
 何時の間にか避難したはずのアナウンサー役の生徒も何気なさそうに戻って来ている。
「じゃぁ次の命令は……『素直になってください』、と言う事で」
「………は?」
 ぽかんとするアナウンサー役の生徒の横で、リナが一瞬硬直した後、見る見る間に紅く染まって行く。
「あ…あん…あん…た、体育祭が終るまでは今まで通りって…ってこれさっきも言ったけど……」
「でもリナさん、もう勝負は決してしまったわけですし、終った様なものですよ」
「まだ閉会の言葉が言われてないわよっ! 閉会の言葉まで滞りなく済んでこそ、無事に体育祭が終ったって言うのっ!」
「まぁそれはさておき」
「さて置くな!!」
 その場に居る、生徒、先生方、父兄達は皆、話の展開についていけず、ぽかんとして二人のやり取りを眺めていた。だが、お祭 り好きの感が何か面白い事が起こっている事を察知したらしく、徐々に期待に満ちた目で二人見つめ始めた。
「とーにーかーくっ! その『命令』は卑怯よっ!! パスするっ!」
「ダメです」
 またも速攻で返されてリナがむっとした顔をする。
「何でよっ! パスするったらパスするのっ!」
「ですからダメですってば。そういうルールだったの、忘れました?」
「は…?」
「パスは一回までなんです」
 リナは悟った。
 全てが仕組まれていた事に。
 自分が、目の前のゼロスが周到に用意した罠に飛び込んでしまった事に。
 最初から最後まで、全てゼロスの計算の内だったのだ。
「〜〜〜〜〜っっ!! っっ狡い!!!」
 真っ赤になって震えるリナに、ゼロスは満面の笑みで答える。
「"お腹の中も真っ黒"ですから」
「う〜〜〜っっ」
「で? リナさん、正直に…なって……下さいますよね?」
 笑みで閉ざされていたゼロスの瞳が露になる。しんと静まり返った会場の中心で、リナとゼロスはただお互いのみを見つめ合っ ていた。
 リナはゼロスの瞳に吸い込まるかのように。
 ゼロスはリナを捕らえるかのように。
 そして。
 ゼロスがそっとリナの手を取って口付ける。
 リナは見入られように動かなかった。
 口付けられた瞬間、僅かに瞳を閉じたが、すぐにまた真直ぐゼロスの瞳を見つめる。
 ゼロスは、リナを。
 リナは、ゼロスを。
 見つめ合って微動だにせず、ただお互いのみを見つめ合っていた…。
 それはほんの一分ほどの事だったのか、それとも一時間だったのか……。
 リナの頬に、ゆっくり赤味が指し始め…止まった時間が動きだした。

「………好きだよ……ゼロス」

 ゼロスが…、いつもどこか皮肉気な笑みを浮かべているゼロスが、始めて本当の笑顔を見せた。
 それは至福の瞬間を味わった者の微笑だった。
「僕も、大好きですよ。誰よりも。何せリナさんは僕にとって、『甘くて柔らかくて良い香りで、世界で一番美味しい』モノです からね♪」
 そしてゆっくりとリナに近づく。
 先刻のように不意打ちではなく。
 リナの意志を確かめるように、優しい笑みを浮かべながら、瞳で問い掛ける。
 リナははにかみながらゆっくりうなずいて、瞳を閉じた……。


 その後、校庭中が沸き上がってお祭り騒ぎになった。
 生徒達は隊列を崩して口々に祝福の言葉やからかいの叫びを上げながら、二人の周りを走りまわって、熱狂の歓声を上げた。誰 しもが、このチャンスに乗じて馬鹿騒ぎをやらかそうと決心したらしかった。止めるどころか一緒に混じっていた先生方まで居た 程である。
 我に帰ったリナが、慌ててゼロスから離れようとしたが、それを許す様なゼロスではなかった。
 これ見よがしにリナを抱き上げて、涙目で抵抗するリナの頬に叉もキスをお見舞いしたのだ。
 歓声が一段と大きくなる。
 祝福の言葉の大半は、涙ぐましい努力がやっと報われた生徒会長に対するものだった。学校中の生徒達が、蝸牛の様な展開スピ ードのこのカップルに注目していたのである。
 午後4時で終る筈だった体育祭は、結局2時間も遅れて閉会した。
 それ以後、生徒会長と副会長が学校中どころか父兄公認のカップルになった事は言う間でもない。
 もっとも体育祭から一週間ほど、怒ったリナにこき使われるゼロスの姿があったとかないとか…。
 そして正義をこよなく愛する副会計の少女が、涙を流してこのカップルを祝福したということもここに付け加えておく………。

[END]




 何か終らない終らないと思いましたら……。これだけ長かったら終らなくて当然ですよねぇ…。過去の記録を塗り替えましたわ。 今まで一番長かったのは「女王様のお気に召すまま」だったのですが、それより半ページ分ほど長いのです。
 終ると思ったページから10P近く続いているあたりがとっても似ております。でも今回のリナちゃんは割と……あっさりと転 んでくれた気もしますけれど。あちらのリナちゃんは照れ屋でどうしようも…(^_^;)
 さて、何か紅葉が予想していた以上にゼロスさんがあちこちで手を回していたようですが…。もしかしたら偶数奇数の組み分け とかも…先生方に圧力をかけて裏から何やらやっていたかもしれません。既にクラス分けの時に……(^_^;)
 リナちゃんを嵌めるゼロスさんがお好きだということでしたが、シア様ご満足頂けたでしょうか……。滅茶苦茶不安なのですが ……。まぁ正確にはリクエストとは言えないかもしれませんが、精一杯頑張ってみました…。
 ヘボヘボですが、努力は認めていただければ……嬉しいです(笑)  By エセ作家紅葉



紅葉さま、素敵な作品をどうもありがとうございました!やっとのことで皆様に見ていただけることが出来ました。・・・・・ここまでが長かった・・・。
これでお姉さまのHPにもBLACK&SWEETがup済、と表示されるんですね(笑)
紅葉さまの作品ならいくら長くても読みますのでご安心下さい♪
でもこれは努力の塊ですわよねぇ・・・。シアにはこんな素晴らしいもの、絶対に書けませんわ(^_^;)
ではこのの努力も皆様にご一読いただけなければいけませんわよねぇ?
ってことで皆様、毎度恒例、この後も楽しんで下さいね♪
(本当にシア、お姉さまを尊敬してしまいますわ。裏にまでも全力投球、という感じですよね。すばらしぃ〜〜!!)
紅葉お姉様、本当にありがとうございました!!

シア