本音




―これは、なーなーのHPにあるシアさまからいただいた『約束』の続きです―


 ゼロスの腕の中で寝起きするようになって一週間―――
 リナはまだ眠い目をこすった。そして、隣で気持ちよさそうに寝ている顔を複雑な心境で見つめると、自分の体に回されている腕をとき、ベッドを降りる。
 リナはもともと朝は弱い方だったのだが、この一週間、誰かさんのせいで早起きになっていた。
 まだしぱしぱする目をこすりつつ、階下のキッチンへ降りると、母が朝食やお弁当の準備に取りかかっていた。コロッケあたりでも揚げているのか、食欲を誘う匂いが充満している。
「おはよー」
 礼儀やマナー全般は、姉に躾られているので、この家で挨拶を欠かしたことはない。・・・・もっとも、挨拶をしたくなるのが、この家の良いところだが。
「おはようリナ。何よ、今日も早起きねぇ」
 あたしに気付き、母も挨拶を返す。こういう風景を見るといつもの日常なのだが、リナの憂鬱そうな顔が、非日常を物語っている。
「さっそくゼロスさんと喧嘩?」
「逆よ、逆。あいつのしつこさに、ウンザリしているの」
 リナは手をひらひら振って、心底嫌そうに言うと洗面所に飛び込んだ。
「”ウンザリ”ねぇ・・・・。女ならゼロスさんのあの求愛は嬉しいでしょうに。全く、本当にウチの末娘は奥手よねぇ・・・・」
 コロッケを油の中から取り出しながら呟くリナの母。
 今のセリフといい、ゼロスがリナの部屋で寝ていることを黙認していることといい、インバース家の女性は、何処か一般人とは違う気がするのは、果たして気のせいだろうか・・・・?
 と、説明が遅れたが、ゼロスがリナの両親に、リナとの婚約を打ち明けたところ、リナの両親(特に母親。インバース家の大黒柱は、実はリナ母だったりする)は諸手を挙げて喜び、当時一人暮らしだったゼロスをインバース家に強引に居候させてしまったのだ。
 なんでも『嫁のもらい手が危ぶまれていたリナが、まさかこんないい男をつかまえてくるなんて!ゼロスさんならリナを任せても大丈夫そうだから、あとはゼロスさんの心が変わってしまわないようにしなきゃ!』との事で、ゼロスがリナと一緒の部屋を使うことを奨励しちゃったりして・・・・
 でも『結婚前にリナの身に何かあったら、婚約は即解消』と釘を刺しているあたり、末娘が可愛くて仕方のない母だった。
 リナは菜箸を持ったまま何やら含み笑いをしている母を無視して顔を洗った後、さっさと部屋に戻ると着替えを済ませた。
 そして引っぱり出してきた大きめのカバンに、あれやこれやと詰め込むと、未だ自分のベッドで熟睡している男を見つめた。
 ベッドの上の枕の横や、ベッドのすぐそばの床には、何枚もの書類が散らばっている。
 昔のことはともかく、ゼロスとの再会は、家庭教師センターの派遣で、という形だった。
 だから、ゼロスは一般社会人だろうと思っていたのだが、実はとある大学の大学院生だという。家庭教師は趣味の副業だったとか。
 昨日もベッドの中に書類を持ち込んで、夜遅くまでその紙切れとにらめっこしていたらしい。
 あたしはベッドのサイドランプ程度は全然気にならない人間だから、隣でグースカ寝ていたふりをしていたんだけどね。
 気持ちよさそうにうつぶせになって枕を抱いて眠っているゼロスを起こしたくない気持ちと、今こいつを起こすと厄介だという気持で、リナはそっと布団をかけ直すにとどまった。
 ・・・・いつもなら怒号一発で叩き起こしているところだ。
 もう一度ゼロスの寝顔を確かめた後、さっき準備したバッグを持って、そうっ、と部屋から出る。
 ―――パタン
 ドアが静かに閉まった後、黒髪の青年は目を開けずに枕を抱いたまま、くすくすと笑いだした。
(リナさんに優しくしてもらっちゃいました・・・・)
 ゼロスは本当はリナが起き出したときから目覚めていたが、今リナを見送りに行けば彼女の優しさを無にしてしまうと考え、暫くリナの優しさの残る空間の中でまどろむことにした。
 そのころ、階下のキッチンでは。
「お母さん、あたし今日はアメリアのところに泊まってくるから」
 母の作ってくれたお弁当をバッグに押し込み、ついでに朝食のサンドイッチを口にくわえると、玄関に向かった。
「アメリアちゃんのお家に・・・・?どうしてまた急に?」
 母も玄関に見送りに来る。
「んー、相談したいことがあるんだって。だから泊まりにこないかって、誘われていたのよ。
 ―――ゼロスのいるところで話すと、あいつもついてくって言いかねないからさ。だから黙っていたの」
 ちなみに、アメリアとゼロスはすごぶる相性が悪い。
 アメリアはゼロスのことを”怪しいカルト教団の幹部っぽい”と指差して言うし、ゼロスの方は”手に負えない、現実逃避の正義かぶれのお嬢様”とアメリアに面という始末である。
「そう・・・・、そう言えば、こないだウチで開いたパーティに来てたときも、浮かない顔をしていたわねぇ・・・・。アメリアちゃん、何かあったのかしら?」
 ・・・・ご察しの通り、そのパーティはリナとゼロスの婚約のささやかなパーティで、それに招かれていたアメリアは、さっきのセリフをゼロスに言われたのだったりする・・・・。
 だがそんなこと、母には言えない。ま、言ってどうなるというものでもないのだけど。
「いってきまーす」
 心配そうな母に元気に声をかけて、家を飛び出した。
(だませた・・・・かな・・・・?)
 嘘をつくのは、本当に久しぶりだった。加えて、嘘をついてバレなかった試しがない。だから今までこんなに真剣に嘘をついたことはなかったのだが。
 ・・・・今回も、姉にはすぐにバレるだろうが、ゼロスがらみなので手出しはできないだろう。
 ・・・・自分でも何をしているのか分からなかった。こんな事をして何になるのか。
 リナは見慣れた通学路を歩きつつ、考えていた。



「リナさん、どうしたんですか?その大荷物。
 ―――あ!もしかして誰かのお家でお泊まり会!? いいな〜、楽しそう〜〜〜!」
 朝、教室であったアメリアは、挨拶もそこそこにそうまくし立てた。
「おほほ。そうなのよ〜。楽しみましょうね、アメリア」
 にっこりとアメリアに極上のスマイルを向け、有無を言わせない、リナ。
「え゛!? ・・・・あの、もしかして・・・・わたしの家に来るつもりだったんですか?」
「そうよ。何、もしかしてあんた、嫌なの?」
 リナはムッとした口調で言うが、
「まさか!わたしは大歓迎ですよー。でも・・・・」
 アメリアは口ごもって、視線をずらした。
(ああ・・・・)
「ゼロスなら家よ」
「・・・・一緒じゃないんですか・・・・?」
「あったり前じゃない!何であいつ連れて人ン家に泊まりに行かなきゃならないのよ」
「そうですよね、うん・そうだわ。いくらゼロスさんでも、そこまではしませんよね!」
 そう言われて、少し汗が出た。・・・・ゼロスならやりかねないから。
「じゃあリナさん、学校が終わったら、お菓子とか買いに行きましょうね!」
 アメリアもすっかり乗り気だ。もともと、女の子はこの行事が大好きなのだ。
 リナはホッと安堵した。
 こうと決まると、2人ともお泊まり会が待ち遠しくて、授業中もソワソワし、色々と計画を練ったりして一日が過ぎた。



 そして、時があっという間に過ぎて、夜。アメリアの自室に夕食を終えて戻ってきた2人は、流行りのCDをかけると、思い思いにごろんとなった。
 しばらくはとりとめのない話・・・・友達のうわさ話などをしていたのだが、アメリアが改まって話しかけてきたのは、リナがクッションを抱いてごろごろ転がっているときだった。
「・・・・まさか。あたしがケンカしたくても、ゼロスはさせてくれないわよ」
 アメリアは、ゼロスとケンカしたのか?と心配してくれていた。
「じゃ、何で・・・・」
「何でアメリアのところに来たのかって?
 ―――そうね、あいつから離れてみたかったのかもね・・・・」
 そこでクッションに顔を埋めてしまう。その仕草が、リナは今朝のゼロスを思い出させて、ふと”顔が見たい”と思ってしまった。
 慌ててその思考を振り払い、大きく息を吸った。
 このクッションは、リナ専用なので(リナはよく泊まりに来るから、専用のクッションを置いているのだ)リナの匂いしかしない。
 ・・・・それが何故だか少し虚しくて。
 何で虚しいのか分からなくて。
 リナは無理矢理その思考を追い払った。
「離れて・・・・って、いくらゼロスさんが居候しているとはいえ、一日中一緒にいるわけじゃあないでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
 アメリアの問いにリナは答えない。クッションに顔をうずめたままだ。
「愛されているんですね」
 ふー、やれやれ。とアメリアが呆れたのがまるで目に見えるかのような言い方に、リナはクッションから勢いよく顔を上げた。
「ば・・・・!バカなこと言わないでよッ!」
「事実なんでしょう?」
「う゛っ・・・・っ!!!」
 リナは返す言葉に詰まり、顔を赤らめ、目をそらし、それからまたクッションに突っ伏した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・戸惑っちゃうのよ・・・・」
 アメリアは親友が話すのを、根気強く待った。
 そして長い沈黙の後、リナはポツリと喋った。
「あいつの・・・・あいつの・・・・愛が大きすぎて戸惑っちゃうのよ・・・・。それから・・・・」
「それから?」
 アメリアは半ば呆れつつも、先を促した。
 全く、リナがここまでウブだったとは。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 リナは言う踏ん切りがつかない様子で、クッションを抱えて、またごろごろし出した。今度は前後にも・・・・
「リナさん」
 アメリアの、ほらほら、という声に意を決したように、
「ゼロスの前に行くと、いい格好をしようとする自分が嫌なの!!」
 リナはとうとう吐き出した。
 一度喋ってしまうと、何だかあっけないものだった。・・・・リナにしてみれば。
 でもアメリアはというと・・・・
 世にも間抜けな、ゼルガディスが見たら何というか・・・・な顔でリナを見ていた。
「な、何よ!あたしらしくないとゆーのは知っているわよ!けど・・・・っ」
 恥ずかしさのあまり、慌てて言い訳を言ってみるが・・・・
「・・・・リナさん、それって、のろけ・・・・」
「ち、ちが―――うっ!!!」
「そうですかぁ・・・・?彼氏のいないわたしにしてみれば・・・・」
「アメリアッ」
 アメリアは、ふふっと笑い、
「冗談ですよ〜。でもリナさんの悩み解決のお手伝いくらいはできますよ」
 と。パチンとウィンクする。
 へ・・・・・・・・?
 リナが戸惑っていると。
「どうぞ」
 アメリアが部屋のドアを開ける。そこでようやく、リナはアメリアが珍しく積極的に話を聞いていたわけを知った。
 不覚・・・・・・・・。
 入ってきた人物を見て、リナはアメリアとウチの居候を睨み付けた。
 そう、入ってきたのはゼロス・・・・。
「・・・・何であんたがここにいるのよ」
「リナさんが逃げるように僕の前からいなくなりましたから」
 しれっと答えるゼロス。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 リナの両肩が震えだした。
「わ、わたしは出ていきますね。お二人はごゆっくりしてくださいねっ」
 アメリアは巻き添えを怖れてとっとと部屋から出てゆく。それを見届けた後ゼロスが、
「僕に一言も言ってくれないから、もしかしたら僕と口をききたくないくらい迷惑だったかな・・・・と思って、もしそうならハッキリききたくて来たのです」
 でもそうじゃなかったみたいですね、と微笑む。
 リナは自分の告白を聞かれていたのかと思うと、恥ずかしくて逃げ出したい気分だった。
「僕はリナさんが好きです」
 そして、ゼロスのいきなりの告白。
「な、何をいきなり・・・・!」
 リナは完全にパニックに陥ってしまう。
「前にちゃんと言ったつもりだったんですが・・・・。足りなかったみたいですね」
 足りすぎて、かえって疑いたかったくらいだ。とはリナは言えなかった。
「リナさんは・・・・?」
 優しく聞いてくる、大好きなひと。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 そして甘いキス。
「リナさんは?」
 答えないとキスをするぞ、と無言で脅されて。
 あたしは。
 あたしは。
 ようやく素直になった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありがとうございます」
 とっても小声で言ったのに、ゼロスは聞き漏らさなかったらしい。
 あたしを抱き寄せて、背中をぽんぽんとたたいて、
「肩の力を抜いてください」
 と。
「僕たち、再会してまだ日が浅いですからね。まだお互いのことをよく知らないですけど、少しずつ慣れていきましょう。ね?」
 うそつき。あたしの事、何から何まで知っているくせに。知らないのはあたしだけだわ。
 だからついゼロスの前では格好つけていたのに。
 でも、でも。
 それを言うのはシャクなので、ただ黙って「うん」と頷いた。
 ゼロスは満足したのか、あたしから離れると、にっこり微笑んで、もう一度キスした。
「本当は連れて帰りたいのですけど、そこまでリナさんを縛りたくないですからね。ですから今日は諦めて帰ります。
 アメリアさんによろしく・・・・」
 そう言ったゼロスが嬉しくて、つい抱きついてしまった。
「リナ・・・・さん?」
「ありがと、ゼロス。あたし、あんたに感謝するわ」
 ゼロスは自分の頬をポリ・・・・とかくと、苦笑いした。
「どうせなら『愛してる』とか言って下さいよ」
「うっさいわね!」
 リナはゼロスを軽く睨み付けると、ドアを開けて追い出した。
 ・・・・ドアを開けたとたん、アメリアが転がり入ってきたのにはビックリしたが。
 どうやら聞き耳を立てていたらしい。
 これは後でこってりとお仕置きしてやらなきゃね。
 リナはゼロスを見送った後、指をパキポキ鳴らして、アメリアの前に立ちはだかったのだった・・・・。

[END]




 シアさま、ホームページ開設おめでとうございます〜!!
ということでお贈りしましたこのお話。実はシアさまからいただいたわたしのホームページの開設祝いの『約束』というお話の続きなのです。
シアさまに聞いてみたところ、続きを書いてもいいよ〜と、快く承諾してくれましたので、私なりの続きを書いてみました。
シアさま、御作品を汚してごめんなさい。そして、そんな危険を冒してまでOKサインを出してくれてありがとう!(涙)
これからもヨロシクネ!なのです。





なーなーさまぁぁぁぁ!!!ありがとうございます!!!!
まさかあんな駄文がこんな素晴らしい形になって復活するとはシア、夢にも思っていませんでした。
これ、複雑な気持ちですよね〜。嬉しいんですけど恥ずかしくって(*^_^*)
作品汚しだなんてとんでもない!駄文清浄機だと思うのです(笑)シアの方こそ宜しくお願いします。
なーなーさま、本当にありがとうございました!!
シア